<850>

 いわば突然に、いわば曖昧に、あらたしく湧き出てきたもの、そのひとつぶ性は、枠内で全力を駆けている。

 私は湧き難い、剝落するものの思想を見ていた。語りは、悲観論ではない。

 私をリズミカルに先取るもの。疾走性と、その対(つい)の、空白地帯の哄笑的巨大さ。哄笑の、長たらしい揺れ、歴史の遅さ、折り合いの巧みさ。

 あくび‐轟音‐ジ‐開(ひら)く‐微々たるもの。剝がれ落つの(おどろおどろしい)、おどろおどろしい言(こと)。例えば、一語一語、その、振り払う身振り、素(ソ)振り、伝達線、それに寝そべる目(メ、メ、メ・・・)。

 少しのあいだ、ノ、凝集。一片の動的な語らい。その、非‐範囲性、ヤ、全範囲性。無記憶、のち、全物語を抱えて、音もなく舞台上で夢を観るとき・・・。

 懐疑性の手拍子。または、リプレイに次ぐリプレイ。待てないものを含み、沈黙はまた沈黙として含み、別々の速さごと行(ユ)く。

 浮浪に額(ひたい)、浮浪になめらかさ、いまだにふいの、その訪問的な音声に、一度なり笑み、一度なり微笑。

 ある夕暮れ、何をか思い立ち、傍目には気づかれない速さで動く、そのことで、途方もない距離を、しかも惑いのなかに獲得したのだった。その、象徴的なリズムが、あくびであり、笑みであり、ひりついた歩行の進ませ方であった。

 急な転がし、淀み、また卵(ラン)が、哄笑に優るその速さを獲得する・・・平たい・・・熱い・・・。

 

<849>

 指で得(ウ)、もしくはスライド、行儀、的意識の一本目。揺れ‐通す‐揺れ。もしくは休憩時間。

 ために意図、細長い、流れ出かけ、ぶん回し。おいそれ・・・。道楽時(ジ)、遊蕩無視あるいは複雑な管(くだ)。

 回転道路への静かな眼差し、おそらくは臨(リン)、おそらくは面(メン)。およびループ。指の問いかけ。

 風、ド、折(おり)、ひと息の世界。あまりにも偶然なひとつの破れ‐開口部‐窪み、から勢い余る、シ、輪っか(整頓)、膠着状態。

 誰々‐自‐浮遊、また、忘れじの、ある土(つち)という響き。共同体音源の、なにげない、日常的困惑に、それは歩(ホ)、歩(ホ)、歩(ホ)歩(ホ)。あれ場面転換。構造変化の表面化(目に見える)と言っても、私の言わば層的性質を過ごしていく数え切れない人々のささやきと僅かに微笑み交わすそんな午後のこと。

 午後はと言えば何処だ。そして揺り籠。くだらないおしゃべりの爆発的な湯立ち方。第一に喜び、しばらくの暴走。

 どこの何を通過したか。見えたとして仕様のないもの、ひらめくものの先にひとつぶの回転無意識、折れ合いの静かさ。プールは煮こごり様(よう)にかたまり、まだまとまりの、しかしにわかに口を開(ひら)くのを待っている。

 温度によって、あたしの態度には別な名前が付けられている。それを呼ぶ‐期‐ミリ‐ストラテジ。堂々と、しばし含み。

 毎度々々線、飛び出し、まどろみ、当番制の言(こと)ずれ。しかしお前さんの無‐音意識に招ばわれるままに流れる。

 

<848>

 靴磨き:靴を磨きましょう。

 旦那:何で?

 靴磨き:どうということもありませんが。

 旦那:あそう。いくら?

 靴磨き:へへ。

 旦那:へへじゃないんだよ。いくらなの?

 靴磨き:いくらでも、まァ、どうぞ。

 旦那:何だそりゃ。まァいいや。

 靴磨き:靴を買うでしょう。するとまァ、磨きますわな。

 旦那:誰だってそうだろう。

 靴磨き:いえ、そんなこともございません。

 旦那:磨かなくてもそれはそれさ。

 靴磨き:さあ、そこでございます。靴を磨かないとする、と、あなたには私が見えないんでございます。

 旦那:そんなことはない、見えるさ。

 靴磨き:へへ。そうですかネ。

 旦那:何だよ、ハッキリしないね。

 靴磨き:あたしには靴が見えないんでございます。

 旦那:何かい、目が見えないのかい?

 靴磨き:いえ目は見えるんでして、靴が見えないだけのことなんで。

 旦那:靴が見えないならどうして靴磨きが出来る?

 靴磨き:へへ。いやだなァ、からかっちゃいけませんよ。

 旦那:からかっちゃいないさ。変なことを言うのはお前さんじゃないか。

 靴磨き:そうですか?

 旦那:そうさ。

 靴磨き:さ、よく光りましたよ。するとあなた、これを普段から履いてなさる?

 旦那:履いてなさるって・・・そうさ、何がおかしい?

 靴磨き:おかしいだなんてとんでもございアせい。大層立派でございますよ。

 旦那:変な奴だな。さ、いくらだい?

 靴磨き:靴を磨けば分かります。へへ。

 旦那:困るなァ、そんなことばかり言ってちゃ。さあ、じゃちょうどこれだけ置いとくよ。

 靴磨き:どうも。またどうぞよろしく。へへ・・・。

 

  ~~~~~

 

 旦那:おい、俺の靴知らないかい?

 靴磨き:何ですその俺の靴ってのは?

 旦那:靴がどこかに行ったと思うんだがなあ・・・。

 靴磨き:どこかに行ったと思うって、今そこに履いているのはどうなんですか?

 旦那:これが靴に見えるか?

 靴磨き:さあ。

 旦那:さあなんて言ってちゃ困るじゃないか。

 靴磨き:磨きましょうか?

 旦那:何を言い出すんだ。何を磨くって言うんだい。

 靴磨き:靴を磨けば分かります。へへ。こりゃ。どうも。

 旦那:邪魔したね。じゃまた。

 靴磨き:どうも。またどうぞよろしく。へへ・・・。

 

  ~~~~~

 

 靴磨き:おや? 何ですそのかたちは。

 旦那:俺も靴磨きになったよ。

 靴磨き:おや? へへ。そうですか、ならまァどうぞ。

 旦那:俺には靴が見えるぞ。

 靴磨き:そいつぁどうも。

 旦那:ちょっとあなたのを磨いてみようかな。

 靴磨き:面白い人ですね。靴が好きなんですか?

 旦那:靴を磨けば分かるよ。

 靴磨き:おや? へへ。どうも。難しいことを言いますね。

 旦那:よく履き込んでますね。徒歩ですか?

 靴磨き:そうでしょうねえ。靴でしょう。

 旦那:あなたサイズが違いませんか。

 靴磨き:どうしてどうして、ピッタリです。

 旦那:それは良かった。では靴をどうぞ。

 靴磨き:何ですあなた、靴なんて履いているんですか?

 旦那:いやですねえ、靴は履きませんよ。

 靴磨き:それは良かった。じゃあひとつ磨いてみましょうか?

 旦那:いえそしたらば、探してこなければなりません。

 靴磨き:変なことを言いますね。探さなくたっていいじゃありませんか。そこにありますよ。

 旦那:そこにありますってあなた、見えるんですか?

 靴磨き:さあ。

 旦那:さあなんて言ってもらっちゃ困りますよ。ああどうしよう・・・。

 靴磨き:何を慌てているんです? さあこちらへどうぞ。

 旦那:こちらへどうぞったって、困りましたねえ・・・。

 靴磨き:どうしてです?

 旦那:磨いてもらおうったって、無い靴はしょうがないじゃありませんか。

 靴磨き:・・・すると、あなた靴が見えないんですか?

 旦那:ええ、そうですけど・・・。

 靴磨き:へへ。それはそうでしょうねえ。だってあなたは靴磨きなんですから・・・。

<847>

 声が能天気に、その場へ置かれたように思う。しかしあのあたしの気恥ずかしさ、場所という気恥ずかしさへ、静かに、また不意に散じてしまったあの声の、向こう側へ・・・。

 速度が私を追い越してしまったっきり・・・。例えばその無言が、膨張する身体(しんたい)の表現、焦りの発露だとしても・・・。

 焦れた日(ビ)、高速の回転、おそらくは茹で、おそらくは噴出。表面へにじんだ、得体の知れない速さ、をぐっとこらえている。とけて落ちるのをまた無感情で見ている。

 スタンダップダ、淀み。いちからの音声、いちからのリズム。経験のあてどもない聴覚的分類。人の話をよく聞くこと時(ジ)‐脱落的(de)‐文意。ふるえ、ひとつの海としてのいわれない轟音。僕‐自‐振り向き。おとずれ。

 脚光線のなかへ不揃いの溜め息、待つ裏(リ)くるみ、ひともじとの柔和な語らい。

 細かなカットが、一斉に放棄されたよに映る。あくびの音声的振り向き、尋常線の膨らみ、不可思議人(じん)の狭間の装い。

 運動を、不都合に、また紙面に照らし合わせ、襞の笑み、またそれは深さで言うところの大口(ア、ア、ア)。現象が無性に声を欲すとき、身体(しんたい)の無言は誰に向けて開かれているのだろう・・・。

 クエスチョンマークがにじんで二重に見えている。俺以降の窓枠。空気は音声への跳躍を、いやしかし無言の矢継ぎ早にも移ろい、驚きはしばしば地べたにひっついている・・・。

<846>

 瞬きの多様性。連続写真の速度、枚数量から考えて、この無音表出は何だろう。誰かが、黙ってしまった、訳ではなかった。

 お隣のお隣はよく見えている。しかし、その隣は、そのまたもうひとつ隣は・・・。

 点滅。赤さは騒音にならない。その無言、無言の騒ぎは、落ちつきとも呼ばわれない。

 真昼間。それも、寛ぎの、非‐骨格性(せい)、誰かがただ名前を呼んでみただけ。笑みの昼間。無音は日々から問題であることを避(さ)けている。騒ぎにはいつまでも根拠がない。

 ひりつく‐音‐正面の、鐘(かね)。人が、むやみに輪っかに変形し、拡がり、おそらく瞬間々々に、ハッ・・・とする、起源の消失。まるみ‐自‐延々表出、それは無言。それは無音。

 俺‐ふと‐火‐ココア。ゆんべの音、もし、ぼぅやけ、延々と層を内に、また外へ、辿り直すことども、水分の前進、途方もない渦(うず)性(それはポンプ‐枝‐司令室‐オーケストラ?)。

 層のミスマッチ、ハリボテ的意味、新陳代謝。トンネルへ、音の揺り、音の非日常性。外側。層は、無言性を考えたことがない。それから殺到、うねりの言葉。

 骨格的な意味の外で、人間にはほとんど音がないのだと考えている。あたしは無音性表現の静かな待ち人(びと)のなかへ、ひよわな鐘の進路を開く。あなたの円環な笑顔。ひとところへ無限定の過去が集まる。

<845>

 過去。見立て。等しく、人、意識の駄洒落。骨盤理解。日々、踏み足。足色(あしいろ)、歩調のif。歩調の異? 符?(キョロキョロ)

 脱皮。あるいは日めくり。メトーデ(目と腕)。大抵、私の態度。その別人歩き、共通の穴ぼこ性。穴ぼこ性のなかの、たしなみ。由来分、渦と、渦で、もぐと、もぐ、それを、例えば、舌、それ自体の視覚的態度、探りの方法に見るとすれば、剥がれ落ちるものの思考(や志向)ぶり、その振り向き。

 斑時(ジ)、音の鳴る。音ば指の癖(ヘキ)の慎重な絵画ばら、いちばん。振るえタ機微。

 同時的不気味。色合いの嘘。一本の腕のグラデーション、そのなかで眠る、ひとひらの葉。葉的願望の末。ミリ意識。ミリ意識の曖昧な着地、停止のイメージの群れ。

 急行道理。あれは、いびつな円。次第に大きく周りを巡る。その、徒歩的緊張、あるいはしびれ。ぐずついた線、紛れもないやらかさと、運動知。

 が、以前と、映像。数には数だけの名前。隣り合う無邪気さ。彼は順番を守ったのでなく、そこのマに用意があったのだと考えて差し支えない。

 磨いた先で、はたと眠る。布団が一枚めくれていた(ようにしか見えない)。陽気さは、意図が笑ってしまう。そればかりか、天井、隙間なく漏れている寝言。

 幹(みき)、幹(みき)、薄い人、一枚の話法、だが重なりつづけたあとで、協力音声のわずかな迷い・・・。

 

<844>

 無数、ユ、宇、とても。かげの気味。かげのスクラブ。よいしょ。膨大人(ジン)、ひろ、ひろ、満つ、ド、揉(も)・得(え)。

 誘惑町(ちょう)。伝染りょ、リョリョ、緑(りょく)? 緑道人(ジン)、愉悦。

 ふうぃ、ふぃ、どぅ、力(りょく)、力(りょく)、素(そ)、すぅ、美、道が得(え)、ざる(ざるざるざる)、を、ウ、鋭(えい)、な(ナ、奈、なぁ・・・)。

 隠れ居(イ)火(ビ)、絡みトゥ・・・マ、シィィ・・・ィン・・・。

 揺(ユ)る視(ミ)、ト、かず(数)えの差、サては、何(何?)、わっ・・・語(ゴ)、語らぶるものの気(キ)、意(イ)、視(ミ)‐目(メ)、得(う)る、わっ・・・音(オン)。

 ボオゥゥゥ(防)・・・ゥゥン・・・。コラプス。当(トウ)の、待ての果て、サッ・・・。意(イ)、に延べ、数(すう)数(すう)ス、ステイション。

 ござい、ア、せい。ござい、ア、せい。よそ、よそ、人人(びとびと)思議、回転用意。無、理のなかがわ、ひたい‐目‐凝視。忘、れらろうれらろうれらろうぞ、有為(うい)、有為(うい)。

 運搬。ヨ、(視)吹き身(ミ)、欠片尻つらまえ、偶(グウ)、モ、橋(はし)。渡り日(ビ)の橋(はし)、今はシ・・・。

 街上、連続歩(ほ)、ホホ、跳び絡み、ミ、緑(みどり)、手前のそ、音(おと)霧(きり)。ムゥムゥ、す、すー。

 や、ヤ、のあわい。味けのみ、触らい、ディ・・・。満つ、ド、呼吸音。満つ、ド、浮遊層。

 美(ビ)、の枚。それは散(サン)。それは知(チ)。うし、見だし聞きだしひとよ、よろめき、また無数庫。ひょい、ト、歩幅合わせ。

 起立、あるいは泉、こうこうト、照り、飽かぬ、またぞろ、日(ビ)、響(ひび)のベロ、(裏)リ、行(ユ)く行(ユ)くわっ、途次、暮(ボ)・・・。