<772>「交潤点」

 ただ、余計な事を言って、笑ってそのまま流してしまう、それを時間としてひとつくれと思った。頭では幾回も興奮している。そうして割り込んで、普通の道筋に侵入して、

  ううん、なんでもない

と、ただ一言笑うだけの時間をここで拡げてくれろよ、と順番に呟いたのだ。

 私に大きな嘘があっても、そのことではつぶらない。具体的に、話せば、話すだけ、おかしいものだね。いくらか吸うタイミングが違って、ここの一瞬だけ緊張していても仕方がないよ、と語りかけながら、どうでも通らなければ安心した声を出せないような気でいたのだ。

 いつよりか遅すぎたものは、例えばひっそりとしみだしていこう。いつよりか早すぎたものは、あくまでゆっくり喋ってみよう。単に重なるだけで、真っすぐに考えたのでは分からないことが明らかになるのかもしれない。

<771>「透明の裏」

 あ、あ、そうして、そばへあたれ。言葉へ、やがて、開き直った目に、剥き出したらそばへ寄る。ただの今、たった今、透明の裏側へひっくり返った。何かに、かけて、溜め息を放つのではなかったし、遠くにかかっても、間で私に何が分かる訳でもない。

 そら挑め。方向が、明らかなだけではまだ戸惑いであろうとも。湧くたびに揺すれ。身体はあなたの穴から出たり入ったりしている。よく覗くと、どれもあのときの様子をしていない。それだけで、またいつもの挨拶を繰り返そうと思える。

 特別に、あっけなく逸れたへこみから見えるものを思い出させてあげたい。いつも簡単に転げているだけで、そのあとは丁寧に振れている。疲れていつからか別の話に移っているとも言えた。

<770>「熱」

 勝手に走る。言ったことは混ざる。誰かに似て、真面目にいくつかを求められている。君は振る。一斉に走る。角からちっぽけな不思議さが現れて必要不要の掛け合い。そこでくすぐる。

 何はなくても強くなりたいんだ。目的は分からない。私乱暴になることはないのよ。譲りはいざ、とてもここらでめくれ上がるとは思えず、おぼえず、くらむ。かける。くらむ。喉の辺りで、ひととおり、止められているものを知る。

 わあ、おそらく、あなた、よくぞここまで。何かしら、知らない。知りえないから、かしら。こわくなっているのと、逃げた。誰彼にゆっくり絡まり出したまま、ただあつい。いや、ちょうどあたたかい。いつまでとは決めない。

<769>「彫れ、そこ」

 絶えず左へ、右へ、揺れていく運動に対し、考えが余計なものとして常に、侵入し続けるという形。私があれこれ、言いたい放題のことを言った後、必ず最後でどうしようもない違和感を覚えることからも、それは。つまりただそれだけでは納得したくない気持ちがどうしたってある、そういうものが気持ちと呼ばれるのだと思う。お前は生まれてからは、おんなじ顔をいつまでも担当しているな、と。それならおそらく、同じ場所を塗るように定められたところ。あっ、あなたそれは何という色なんです? 誰かかわりに答えてやってくれ、と見回した、のち、余計な小ささとなっていて何も見えない。

 それは例外だから、と、あちこちで、鼻の笑う音が聞こえる。例外しかないのにそれをどう考えるつもりだろうと、とりあえず疑問に思ってみたところで、朗らかに笑った。なにか気にするようなところがあったのだろう。ここらを彫れ。

<768>「瞬間的なこぼれに」

 それから、上を見る。わずかばかり私のそばまでこぼれて来て、軽く拾い上げると、静かに噛む。かたい、何故か名前が流れてくる。ひどく呼んだ。それで、この場から出てきた。よく似合う。それから隣に並んだ。どうしてもからかわれる必要があった。ひどく笑う。行方だけ、ひとりに知らされる。すると掴む。わざと両手で掴む。あなたには考えに違いないものが増えていた。それで、突然見た。突然見るよりしょうがないのよ。準備が足りていた。それから、私は飛んだ。他に方法は知らなかった。返した。時々話して、別れた。あなたのいる場所はどこでも良かった。ただ、場所を悔やんでいた。もうそこは私たちの場所ではないのを、ただ悔やんでいた。そばに空があった。わざとひらいていた。音と、余計な装飾はなかった。慣れた。言葉と、偶然に慣れていた。だが、いつにない。いつにない身振りが誰かの突然を呼んでいる。嬉しい。震えていることと、わざと。あれはまだ、かなりを数えている。徒に増えておくだけで、今は見ない。歩いた。そして時々、よそを向いている。

<767>「視線のない踊り」

 あなた、誰かに顔が似てますね。いやですよそんな、ほかへ行って言うのよしてください。ねえ誰かの顔に似てるだなんて、そんなふざけた話がありますかしら。あらやだ、ちょっと目と鼻と口の数でも数えていたらいいのじゃないの。誰だって顔でさな、似まさーな。ふたつくれ、ふたつくれろよ参考に。膨らんで、また捨てて、いちいち名前をつけてくれてて有難さのなかでいつもより似なよ意識するとしないとにかかわらずだよ美しい。

 このやろう、人間なんぞに生まれて、あげくに死んでいかねばならないんだ。こりゃ驚いた、あんたそっくりそのまま生まれないつもりなんだね。後ろを見、前を向いても見つかりやしないあなたが充分に弾ませたところでひとり残らず見向きゃしない。ふざけてるよ、ただなんとなくふざけているとあたしには段々似てくるのさ。存在がどうとことんまで分からなくなっているところを見るとおい、一体どこから出てきやがった。

 いつものなかで目一杯踊るなら、見物人はいない方が良い。第一見物されるなかでの踊りとは何ですかそんなものあたしは見たことがありませんよ。完全に溶け出した、よだれしかない踊りみたいなものもつまりは見たことがないけれども当然私はそれをイメージ出来る何故なら誰にも見られていないところでこそ踊りが華やぐことをひとりでに確認しているからでしょうがあっちへ渡りなさい、雪が落ちる。道幅はむっと膨らんでいるから・・・。

<766>「跳ねて、跳ねて」

 いくらかの片側。そこは名付けた通りの角になっている。人々が、なにやかやがやがやと現れるだけ、一向にあちらを見ない。要するに、どこへ向かって流れ出せばいいか、分からないままで順番に歩き出してしまったのだ。

 どこへ行くの、さあ。ならば、どこにあるの? 私に訊くな、という表情ばかり数えていて、時間ばかりは経つけれどもそうだ、いくらでも座ってやったらどうだろう。既に、あちらこちらで座っている人々、立てとも何とも言わず、ただ中空の一点を眺めていた。眺め方に品があると思った。私はてっきり、この場限りの挨拶が必要で、知らされた名前もすぐに忘れてしまうものだとばかり思っていたが、勝手が違って、嬉しくて跳ねた。

 いや、軽さだ。ただ軽いから、跳ねて、私は跳ねて跳ねて跳ね回らなければならなかったのだと言う。それは誰でもいい言う。いやだなあ僕は、ここへわざと躍り出てきた訳じゃないのさ。理由がないのが何よりだった。