<916>「三段跳び」

 ああそう、マ、そう。や、よかよか。それがまた、夜(よ)、不分明ダ、だだだ。ひとりとモノはまた、からだ。姿、は、見(ミ)と和(ワ)。

 数とまず、求め、それら、また和(ワ)。見えない。震え、湯気、奥、気づかない。記憶、淀む、それら、空(そら)、あたまのなか、カラ、は、ひらひら。

 またマ。まとまり、おとは走り、ぶらぶら、よるべないよるべない。ものは、まだまだ。誰だ、と、ここはマ、あたらしいカドで、飲むや、食うやら。

 われわれはたれ? われわれは、混ぜ。ひとことめ、何故? 黙想で、既、につかんだ、は、かたまり。まだ遠くや近くで非常識に鳴る、コトコト、ときはひた運ぶ。わたしはそらを避(よ)ける。

 もぐもぐ、ト、もぐもぐ。ひとはきかい。ひとはきたい。まさぐる、ミ、ぐる、ぐる、ミ、ぐる、うたう、は、ひとふし。ものが通る世界。ものが通る世代。彼方にひとりの泣き声。皆の視線・・・とひとつのやわらかさ。

 ひらたい、ネ、世界。うるおい、ノ、伸び声(ゴエ)。糸が揺れる。あなたはまたひたい、あなたはまたひたいのなかに棲む、のゥ、扉、夢、膨らみ、ひたした、は、のどのリズム。

 どんと来い、どんと来い、湧く湧く、きらきら、まさかはマサカ、に、寄りかかる。わたしがにじんでゆく。知らない人(ひと)に声の似る、うふふ。空(そら)はただ裸(はだか)で晴れている。やや、や、見ている。いくつものまなざしが映っている・・・。

<915>「とけてくれ」

 こう、こう、こう。と、巡り、声は打つ、声は打つ。

 ひくり返り、午後のなかへ見事に歩いてゆく。その手前、ひらけた音(おと)、ひらけた言葉。

 午後は二度、目を開いた。例えばわたしは静かにしていた。

 いがむ。顔は気配を消す。夕どき、重なりは解消される。わたしは水を口に含んだ。ものはものに応えていた。

 日々のなかで裂け、間近で音が鳴り、ともかく明るく点滅していると、人(ひと)は背のなかにまぎれていった。ボウと煙が立っていた。ボウと煙が立っていて、よその記号のことまで考えていた、ように思える。

 表面に全てがあらわれて、出来るだけ空洞になる。出来るだけ空洞になって、その瞳に同化してゆくと、場面が一度に言葉へなってゆく。言葉を持って消えてゆく。

 音(おと)の度、小刻みに揺れて、あなたを蒸し返す。あなたは怖ろしさだけを基準にする。人(ひと)は語るに際し、まごついたり、大袈裟にならなければならない。涙を流している、人(ひと)は笑っている。

 手のマに小さく振るわれて、わたしは生きている。わたしは生きるに際し小さく笑わなければならない。義務ではない。

 日差しが小さなビルを選んでいる。わたしは細々とした言(こと)の断片を拾う。人(ひと)はあちこちに見えている。言語が違うと考えてそっぽを向いている・・・。

 熱を加え、とろみ、人(ひと)が掬う、わたしは結わえ、ものに手を寄せ、隙間を埋める。あァ、とためいき。見えなくなり、ただあなたの角度を見つめる・・・。

<914>「無容器の眺めへ」

 照る。ものと、照る。とこは、こころと絵、渡す。

 あなたは海側の表情を持った。ただ懐かしくなった。

 わたしは灼けた砂を振舞った。呼吸音が人(ひと)の背に向かって伸びた。

 湯気の伝うる、それは仕草、に手を触れて、知らず、微笑みがまともさと離れがたくなる。

 扇風機が、おそらくどこかで記憶違いをしていて、めまえを小さくかき混ぜていた。手紙はその時点に声を持った。やや緑色になって笑っていた。

 舟は各々が音声記号になり、ただの地面を不安視する。表情の上を闇雲に走り回り、やがてただそこへ道を見るようになる。立ち尽くしている人(ひと)へ、時間をここで何かへ返さざるを得なかったものへ、やみがたい敬意を払いながら・・・。

 あの、了解の瞬間へ、再び戻ってみても、霧は晴れない。ただ、ビリビリに破れた紙のそのなかへ、静かに顔をすべらせてゆき、曖昧だが確かに次の道筋が示されていることを知る。わたしは整理をする訳(わけ)ではなかった。

 暗さは、酔(よ)いと、同じ顔をしていた。ただ酔(よ)いに被さって遠くを見つめていると、過去のからい匂いが絡みついてくる。そのとき場所を持たずただその場に浮いているしかなかった。

 勢いは、身体(からだ)のなかで場所を取らず、むしろ数ある場所をひたすらに忘れさせた。これほどただの容れ物であったこともないだろう、が、夢はあまり見なかった。ただからんとした一場面のために人(ひと)は、あるいは振舞いを少なくしていた・・・。

<913>「手と手と身」

 遠のきとひらめき。近くで花を弾(はじ)く、と、魅惑。困惑のなかに棲むは人のゥ、あたらしい姿。その姿、触覚に何をか訴え、ひとはつぶさに見る、と、めだまはひょいと踊る。

 わたしが触れたもの。触れたものににおうこと、おそろしさ、交わす言(こと)、揺れるときと移り・・・。

 み。さかしらな手足。ゆくはゆく、ひとの傾げに手を振り、ひたすらに地面をつかむ、は、震動する。

 ものの揺らぎ。揺らいでは、マ、に移り、マ、に潜み、とびらのもの音(おと)に、全ての思考を委ねる。あっけらかんと、シ、ただの空間へ、あるいは、ものの数秒の戸惑いへ、ひとりで目を向け、こころなしか跳ねている粒や粒や・・・。

 そのひとつひとつがわたしにはりついて、剥がれない、トゥ、笑顔。ゆるめた葉に静かに身(ミ)を乗せ、浮かぶは手のひら。あたたかさと涙。戸はうなずく。

 わたしはだだ広い空間で訳(わけ)もなく晴れている。雨水(うすい)の予感を含んで、覚えず飲み込んでいる。

 手と手と手。身(ミ)の垂らした声や、ほっとハく息の彼方へ、時(とき)は次第々々に近づいてゆく。無音風景の、感づかれない速さに、面食らっては振れる・・・。

 淀むと、疾駆。ひとは、おのれのタネが、風に乗らないとも限らない、とし、眩しそうに上へ目をやる。ひとはただのひとふきにおのれを乗せる。ゆきさきは見えていない・・・。

<912>「無彩色」

 からい。隅に名の、わたしの名の、こごえてゆく、ひとは移る、ひとは移る、よろけたヒ、よろけたヒに手を、手を触れ、わたしは蒸した、わたしは蒸した、ひとは洗い、ひとは水のヒ、ひとりでに触れて、ひとしきりあおいだ。

 空は見ていた。空はただの色(イロ)を求めて何かを見ていた。セキレイはふるえていた。セキレイはただモノトオンで、空は意味を帯びた。この鳥が捉える世界の中に小さな意味を帯びた。

 夕焼けに移っていた。夕焼けは特別目立った感想を抱かなかった。ほかの声とともにその場へ転がり、ただ蒸された人(ひと)、また人(ひと)を静かに眺めていたのだ。

 誰かが帰っていた。訳(わけ)もなく帰っていた。無理からぬ声は夜を招んでいた。ふるえて増えている夜のためにわたしは軽快なステップを踏んだ。モノトオンはしばしささやいている・・・。

 めざめると、ふるい、あたしから渇きのひいたころ、水は音(おと)もなく増えていた。朝はどこまでも水であった。ホゥホゥと、遠のいた声の代わりをする・・・わたしは羽ばたきを求める小さな水の一滴であった。静かにくしゃみをした。

 揺り起こして、あなたは手のひら、そのひんやりとして、膨らんだ肌のなかに真っすぐな声とともに触れ得(ウ)る、わたしは人(ひと)のなかで誰だろう、と小さく思っている・・・。

 懐中電灯は、簡単な仕草で、時間をひとつにまとめてしまった・・・。わたしは静かに喉を差し出した。あらためる度、姿勢、ト、ひと間にボォンと鳴るとき、木で作られたらば、あたしはこうであった、という発見が、またここで渦を作る・・・。

<911>「草の匂いになって立っていた」

 かれは・・・。欲をムき、ひたすらに走っていた。

 彼は芝をムく。突然の笑みで。

 かれは、大袈裟な明かりのなかにいた。ひとりでふざけるのもいとわない。何もかも隠してしまうにはちょうど良い、とだけ言った。

 ひとの知れぬ笑みのなかにわたしを置いた。わたしは風景とともに穏やかな色をした。

 指が、ひとの表情を、それはそれは丁寧になぞるとき、記憶はこの場面のことをためらっていた。

 彼は、思ったより増えていた(わたしが触れたからだろうか・・・?)。ひとの声に絡まり、流れてゆく、もみくちゃの映像のなかにひとり、指を染め、軽くなって走っていた。

 わたしは幾種類もの表情を残し惚(ホウ)けた物質になって立っていた。草の匂いになって立っていた。あなたは過ぎた。あなたの声のなかに立ってふさいでのちひらいていた。

 戸のひらく。さらさらとゆく、ノ、透明な喉には、一枚の葉が、うれいを持ってひたとはりついている。戸は軋む。ヒ、がわたしの顔をつらまえてもうほとんど座っている。

 ゆっくりとする、は、多少の、明るい遠慮があったからではないか。わたしは道を湿していた。

 わたしはぐるぐると巻く一連のゆきかたを眺め、あるいは眠くなり、あるいはこの外にいると考え、あるいは訳(わけ)もなくただ汗をかいていた・・・。わたしはいつも速度をこえたいとする欲望に小さな眼を据えていた。

 ひとは言(こと)の彼方に小さく割れていて、その笑みはわたしにひそかに手渡される。しばらくは手を読んでいた・・・。

<910>「生命の模様、無関心」

 ひゅう。ひゅう。ひゅう。ト、結(ユ)・・・。

 ひゅう。ひゅう。ひゅう。ト、結(ユ)・・・。

 音(おと)はずれにちらつき、寄る、ものを結う。仕草の隅に隠れて、安堵は息、か、息、を静かに過ぎてゆくのか・・・。

 目論見の外で小さく鳴る、は、嬉しい。ゆくゆくは晴れて、より一層分からなくなる。

 謎がからむ、カランと鳴っていて、私は手のひら、私は手のひらのなかに向けて相槌を打っている。手のひらは微動だにしない。

 無垢はひとつの背中だ。私には熱だ。いくつもの時を経ては、幼いとき、本当に幼いときをタネは探している。ついに、私は、動きを音(おと)にしていた(どこかでおとにすると決めたときがあるはずなのだ)。

 無情をあるかどで拾い、長いこと眺めていては、ときどき大きな時間にぶつかることのある・・・。生命はたれかに似て無関心だ。そのくせ、はやい流れを持っている。

 熱をどこかへ放り出したいと思っていた。あるいは潜る音(おと)が聞こえる。内側はいつも静かだと思われていなければならない。渦は人(ひと)の掛ける声をよくきいていた(イ)・・・。

 たびたび戸の閉める瞬間に出合い、その隙間に得体の知れない揺らぎ、優雅さの映るとき、私は、(ほ)、(ほ)、と順番に言(こと)を継ぎ、剥がれていた。余計なものも含めて全てが夜にふっていった・・・。

 置き集めては放し、魅惑の一語で震えては止むそれぞれの、身(ミ)の通り方をよく読む。等しさは呼気にある、とすると、ちょうどその数だけ人(ひと)が分かることになる・・・。