<1140>「転ぶ朝」

 追うだけの朝ではなく。

 ためらいだけがまた朝なのでもなく。

 数限りのない仕草の上へ、ひとり寝そべる。

 まだらになっているままで小さな記憶のそばへ浮かび、

 どこを向けたらよいかも分からない。

 ふたひ。 転んでいる朝。

 目が覚めてはそこここに淀み。

 忘れ得ない。

 身体が湿る。

 晴天と、新しい声のなかに居て。

 ゆるめた声のなかに居て。

 ひとしきりやらぐ。

 おそらくは遠い、遠いはたらきを見て、姿を移すように、

 めまえに静かな人がうつるように、

 あるいは感覚の後ろにいつまでもひとつ、名が残るように。

 感覚は晴れている。

 ズドラーストヴィチェ、

 わたしにとってはこれでも朝である。

 時々夜を見て、そのまま帰る。

 もぬけの殻になり、そばにあり、

 そのまま、

 分からないもののたとえになる・・・

<1139>「緑の列車」

 かく回転する。

 かくまた回転することのなかに。

 おそれ、いっときの考え。

 まだ言葉もアけていないそばから。

 道端に静かに倒れてゆくさま。

 その名残りでそこへ出来ているさま。

 数々関係のあるもの、丁寧に膨れ、

 いっときの色はない、影もない。

 モノトーンの歩行。

 その名が通る、通る。

 緩やかな、、

 ただ、緩やかな、

 もしくは転げているままで伝う。

 これはどのエネルギーにも分からない。

 何から何へ伝うのか知らないままであると。

 道端で静かに名を避けているように。

 緑の列車が通りその音がどこかの壁に残ったままだ。

 明日はまた緑の列車に名を預けているだろう。

 どんなき別人もその場へ居合わせ、

 かわいた煙のなかへゆかむとす、

 車両整備員は華やぐ、、

 こちらは点検の季節だ、

 時日を違(たが)えずに、、

<1138>「わたしらから」

 あれしら、

 ものすごいはやさでたわんでゆくだろう。

 よ、長き日。

 ひとつの不始末を混乱とともに見つめる日。

 あるかなきかしら。

 わざと。

 もう呼吸を思い出だせないほどに前。

 逆さに文字を読んでいる人々。

 二度とない言葉伝い、

 激しい道。ただひたすらに細い道を駆け上がる。

 そのとき呆然としてまさか熱をそのままにしていた。

 振りも笑みも眼差しも全ては横に逸れ、

 かくあるべくなるさまに縮みあがった。

 あれだ しら

 形のない入り口。

 知らぬマまに覗いて、

 あとはだらりと下がり暴るだけ。

 のだけ、手だけ、文字だけ。

 わたし ら

 らの呼吸

 らは喉奥から出かかり、何かを遠慮した。

 なにとしら、

 もうなら、

 もう少し淀みに寄りかかりそうならば・・・

<1137>「一度の草、一度の宇宙」

 彼ら、彼らには窓辺。

 不慣れ、あくまでも。

 その不慣れな窓に尋常様にもたれかけ、

 吹きぬ 吹きぬ 眺めやる。

 すると、たった一度の宇宙

 たった一度の宇宙に草がひとりで凪いでいて

 無限回の夕映えにあこがれを等しく映している。

 このまま実にすみやかに、

 ひとり際限のない、小さな紙きれを手にし、

 意識ごと眠っている。

 たった一度の夢、たった一度の宇宙で草を食んでいるいきものら、

 あるいはそのしなやかな身体で水に浮かみ、小さな子どものそばを離れる香り。

 ところどころが欠け、何かをそこに読む人々。

 いつもと違い、ごわごわしている姿。

 地面の繊細な皮膚、かぐわしい毛束。

 分厚い雲は不慣れに流る。

 まだここからの眺めは、たったの一度きりにはならない。

 ためらいのないやらかさと無縁である頃に、

 こうして意識と無限の夢を見て、

 生き物らしく賛歌を駆ける。

 あれは一度の色、

 一度の揺れ、

 一度の溜め息。

<1136>「声の薄明かり」

 第一声は過ぐ。

 かわるがわるにじむ。

 いじらしく傾いて、

 ぼんやりとネになる 横になる。

 第一声は過ぐ。

 ひとり 新しい。

 昔の姿形。

 ただ空きマにたたずみ、

 ひとつ、ひとつ、ひきずる。

 眩しさは変な感じがする。

 誰も眩しさに目を留めていないようでもある。

 あまり眩しくて寝ているのだろうか。

 声が少なくなった。

 姿も、膨らみも。

 大きな運動体を無意識に日なたへ、

 そのままで干していた。

 かつて交わした会話をしている。

 風もなく、湿りもなく、

 あるいはちょうどよい大きさのカラスもいる。

 ただの田舎道の行列を想った。

 尋常様に死に、尋常様に集まり、尋常様に鳴いている(それも非難を込めている)姿の、

 いや、今あまりにも眩しいためにこの場所がどこでもよくなった。

 この場所がどこかもよく分からなくなった。

 今ひとつ視線を寄越したのはそのときの説明を済ませるのかもしれない。

 本当は腹の空いた自分をひどく面倒くさく感じているのかもしれない。

 のいっぱらに一杯の風と、眩しさと、無関心を承け、ただひんやりとする。

 明るみにまた明るさを引き出だしてこれを現実とは思えなくする。

 何かを忘れることで遠くまで歩けている。

 ひとの微細な揺れ以外を信じなくなる。

 捨てられたものを何の感慨もないままに拾い、何の感慨もないままにまた捨てていく。

 それから陽、また陽。

 これは想定していた熱ではない。

 これは想定していた姿の熱ではない。

 昨日あからさまに消えたままでいるのかもしれない。

 あるいは、長さは何にも示唆しないのかもしれない。

 こういった形で寛いでいるのはなになのかもまた視線のなさで言えるのかもしれない。

 遠く

 焦げた匂いを現実的と評するのにしばらく時間がかかるかもしれない。

 自明のことのように飛び去り、自明のことのように鳴き、自明のことのようにひんやりして、

 わたしを視線のなさで迎えてくれ。

 香りは長く、

 そこここにまたがり、

 あからさまにぼうとした、その上、

 ここの自明の眩しさ

<1135>「第三時の人、窓」

 声のと、のと、声らしい

 腹なかのニ、三本線

 たんに勢い、転がる。

 転げり出でてまた のとニ、三、ニ、三本線

 ようなら

 はっと転がり出でて、

 はっと転がり出でてなにやん、

 第三時

 ただのまっさらな第三時にわたしは、普通の人になりたい。

 包み、ひらく。

 不安定性の第三時にあらはれ、

 煙という煙の流れ。

 まじれる。

 のいっぱらにいかめしい顔を晒して。

 うたぐ。

 ひとつき、ひとつき、ひとふしと、 流れ。

 凍り、静かに離れる。

 かは流れ、 ひとりひとりの一切。

 裂け、裂け、 歩く。 

 またぎ、

 第三時の窓。

 記憶のなかの手。

 進むより仕方のない目と目。

 忘れる。

 何がこの熱にかかわっているか、

 知って、知らない。

<1134>「明るい拒否」

 同じ日々のイメージ 同じ日々の企み

 ここがここえゆくまわること

 同じ日々のイメージ。

 あなたのあの明るさは拒絶なのかしら。

 素直に前を見つむ、あまりに素直に前を見つめすぎた人。

 語り、語り、語るに、イメージ。

 よろけて

 暗い、暗い。

 周辺は明るい。分かりやすい、明るい。

 あのどこへもゆかない響き、

 ただ足が痺れてしまう。

 ふたつのよいのなかえ、からだはイメージを辿る。

 ああ日々、あ々1日、

 gimme gimme age gimme age

 遠くらしい、続くらしい

 掛けるらしい 声らしい

 まだかたまりのなかで1日過ごすらしい。

 同様のテンポ のっぺらの歌。

 野辺、 野へんあたりの歌。

 軽々しく弾む。

 むせかえる匂いの仲間で、そは跳躍、また跳躍。

 同様のテンポ、同様の1日。

 過去色、黄土色の鳥。

 

 ただの目。やけに黒くあけらかんとした。

 ただならぬ日々のイメージ。

 いくらか跳ねてみて、跨るイメージ。

 流れてく映像で。

 テンポ 合流点 テンポ

 諸々はかわいたままで、

 簡単に、簡単に、簡単に。

 言葉のままで、ままよ言葉よ、遠のくままに

 おどるおどるし、 また踊る踊るし、

 ゆるせよ、見、ゆるめろよ、

 喉よ、快活に触れろ

 触れろよ触れろ、どこのこのこう

 僅か、、 裂けている

 破廉恥な1日。 同様のテンポ

 あけらかんとして乱らさ。

 軽々とゆく。 ものすごい。

 子どもの起床。辺り一面子どものテンポ。

 水、雨、目の先長い長い長い延長の先、

 能面の踊り 能面の1日。

 全き静かであること。

 あぁテンポ あぁ洗濯物。

 断片 映像 その頃から繋がっていること

 あとのあとの影 長く続く質問。

 何かを忘れて楽しんでいるとき。

 何かを忘れてひとつひとつを浮かすとき

 会話 それから 正気

 全き正気 全きテンポ

 うろおぼえの1日と都市。

 時々は挟まる声。

 似ている。 静かであけらかんとした黒い目。

 

 黒い目のなかに都市がある。

 そこで黄土色のカーディガンをはうり、

 心臓は止まり、落ち着いて、

 ただに緊張している。

 過去は虫の気配のなかに紛れた。

 もぞもぞ ひとりで もぞと ひとりでしている。

 あけらかんと湖面。 いや、ただのカップ。

 見つめる返される。

 黒い目のなかで静かに古くなっている。

 おどるおどるしい。

 なんでもかでも、か、なんでもかでも。

 些細な揺れ。

 おまさんなんのつもりだい。

 さて困った。つもりがない。

 それで、いつのマにか黒い目のなかにあけらかん、

 あれあけらかんあけらかんとしていたのじゃなかったか。

 まうしあなたは大事に育ててくれた。

 目を見よう。そこから誰も出てこないように。

 しかし、テンポ、しかし、純粋。

 あるいは厄介なもの。厄介なひと。

 時折浮かんでくる。

 あの人の夢にぼんやりと浮かんでいる。

 並んでいる。

 ぼうと開く目でタイミングを決めず、

 待っている。

 待っていない。

 似ている。

 今日はやはり黒い目なのではないか。

 素直に前を見つめすぎて。

 もう少しうつむいてみたらいい。