<1208>「腕に彫られた道筋」

 道は既に腕のなかにあり、

 堂々と、

 あるいは無関心に、

 抱えているひとりの男があるけれども、、

 なにか不安げな、

 どう振舞ったらよいのか、という顔をして、、

 私は歩いているけれども、、

 

 歩いているけれども!

 かたちが感じられて、、

 ひとつ、抱えていて、

 ある、途方もない不気味な表情をしたこの包みのほかに、

 抱えてゆくものがないから、

 男は誰も知らない顔をしていた、

 

 あたしは倒すべき相手も持たないたたかいの姿をしていた、

 それはある意味、、

 長い時間無表情である、

 長い時間ぼんやりとした夢の中のようであるが・・・、

 時折胸倉を掴まれて、

 きゅっと息が苦しくなるばかり、

 まるでどこを見ていたらいいかも分からない、

 過ぎる時間に対して、私はどこまでも遅れていくような気持ちになる。

 どこまでも身体が自由を失ったような気持ちになる、

 それで、ふっとその一連の、

 何もかもから当たり前に還っていて、

 なんだったんだ(なんだったんだろ・・・?)

 と、

 どこか片隅の方で思うくらいな、

 平穏を、

 平生を、

 私は過ごしているけれども、

 

 少し待っていたのか、

 どうなのか、

 男はひとりで抱え直すと、

 また、誰も見たことがない表情へ、

 誰も見たことがなく、

 そこから、

 誰も見たことがない表情へ変化してゆくので、

 何が変わったのかもまるで分からない、

 不安が完全に性分と一体となり、

 物に変わってしまった、

 それをまたひと抱えしていた、

 わけだけれども、

 

 私がなにか ここで声を掛けるんだろうか、

 あなたとは別の景色でもお会いしましたね、

 と、

 なんのきなく、流れるように投げかけ、

 身体をびりびりと震わせて出会うのだろうか、

 一日という性質が、

 なにか想像を絶するかたちを帯びるぞ、

 と、

 ひとりで僅かに思っていた、、

<1207>「呼吸器」

 呼吸器、になった、日を過ごす。

 全然苦しくない(ゼンゼンクルシクナイ)、

 全くいろいろな出入りがあるね、

 という意味で、

 めまぐるしい、

 それだけいつも出たり入ったりしていて、

 どうしてくれるだろう。

 

 今、僅かな息に、

 お前が見つかって、、

 そこから全然違う身体になっちまうと、どうする?

 どうしてくれる?

 そんなことは分からないけれども、

 ざわざわと耳に騒ぐけれども、

 全然苦しくない(フユカイジャナイトイウコト)

 全体ここにいろんな道を見ている、、

 

 当たり前じゃない、

 ね、

 お前さんの後ろ姿はどんなに長い線を引っ張っているだろう、、

 全くもうひとつの道行き、

 それで鈍行列車にすべりこむ、

 全然苦しくない(オモワシクナイモノハナニモナイナトイウコト)、

 そんだけ走ったのだから、

 まだ走る、、

 お前さんは時々正面を見せていたけれど、

 あれは夢だったかな、

 こんな映像はついに私もオサメタことがなかったと思う。

 そいだから、

 ひとりで煙を吹かしていると、、

 あなたの呼吸器のなかに不明なものが、

 香り様のものが(スイコマレテユクトイウコト)、

 すぐに紛れ込んでいるけれど、、

 ちょっとあなたの色が濃くなったようにも思う、

 その間もずっと、なんだか流れているからね、

 絵の中みたいで、

 いやに高揚じみた不安だろうな、

 こんな日に乗っているのは私くらいだろうな、

 と、

 誰もいない時間に、僅かな声で、

 考えていたりもするけれど(ケムリヲフカシテクレルノダナ)、

 

 その日をもう一度くれるだろうように、

 その渡してくれる手のかたちに、 

 静かに感嘆しているけれど、

 どんなだろう、、

 ね、

 急に(ニナルガ)、ぴったり、

 風景に違いないものが、

 あなたと一体だという振りをして、

 大胆に今いるけれども(カゼヲクラッテモドウドウトシテイル)、

 今、私は、

 こんなことをいくらも知ってきたような気持ちのなかにいる、、

 そんな、次々、溢れていく煙で、

 誰が話しているかも分からないけれども・・・。

<1206>「明るさへ出る」

 ある確かめようもない一日に真暗な姿のままで立っていて、

 ここをほどなく曲がるはずの人を見ている。

 驚きを浮かべ、、

 小さく笑んでいる。

 

 時間から大きく遅れたところで、いつまでも嬉しがっていた。

 

 私はこんな隙間を持っていることを考える、

 一体誰が案内を寄越したんだろうか、

 しかしもう照れ臭いので、普通の生活をいただきます。

 全くそれぞれの領域が沈黙になるまで、

 なるほど声が想像を絶した遠くに届くために、

 私はあんまり涼しい表情をしてここに静かにいます、

 

 なるほど同じ日の同じ出来事が、

 ある人のなかで欠けだし、

 またある人のなかで明瞭に点きだしているだろうから、

 それは全く活発に生きだしているようで、、

 それ相応の熱を持って、

 私の手までが感じられるのです、

 それを知らせるべくまた隙間に鳴っているのです、

 

 きっと、こういう一日なら、お前にやってもいいという日をひらって、

 そこにぼんやりとした香りをつくるでしょう

 あんまり嬉しい香りですが、

 これが常態だと、

 なんにも分からない、

 全くなんにも分からない、というのは少し間違った表現であるかもしれません。

 しかし軽々とした、当たり前に消えてしまいそうなものでも、

 こうしていつまでも点いているのですから、

 ひとりで安心して、

 このまま眠るということもありえましょう、

 

 なかなか捨てにくい声をしていると思いませんか、

 そのためかどうかは分からなく、

 ただ だだ広いだけであるかもしれませんが、

 あちらこちらによく通って嬉しいこと、

 それが喜びのまま私のところまで届くこと、

 それなので愉快な気持ちのまま、

 それだけで表情にはあらわれず、

 ただ黙々とゆく道の足しになっていることとも知らず、

 当たり前に歩みは軽いのです、

 

 当たり前に人の歩みは嬉しいのです、

 そこに何ものかが加えられていること、

 全く さらであることをも含めて、

 当たり前に閉じること、

 当たり前に散じることをも含めて、

 それは静かな一日をなしていたのだな、

 という、

 私ひとりの感慨まで届いて、

 ちょっと跳躍ひとつするのではない、

 わっ、という勢いひとつ溢れるのではないけれども、

 こんなに照っていていいのだろうか、

 と、

 道をゆく人が残らず思っているような、

 こんなに僅かなものでも瑞々しく全体に届いてゆくものだろうかと、

 たったひとりでも思っているような、

 そういう一日を知りたいと思い、また、

 そういう一日を確かに知っていて、

 なおかつ平生から見事に浴びている、

 と、そう思われて動かないのです、

 

 全く予期しない日の送りに出合い、

 あんまり素直に驚いたこと、

 あんまりきりきりしている呼吸空間の隙間に、

 これだけの香りがあること、

 誰かがまるで別のところにあり、

 何の前触れもなく思い出だしたときに、

 私の情景が素直に変わったこと、

 それを鳴いて知らせるだけのつもりがあることを、

 いつもこの同じ朝に感じ取っているのでした、

 

 それは、全く新しい陽の姿をしていて、

 私はとてもこういうものを憶えそうにないけれども、

 身体だけが何のてらいもなく変わってしまうだろうことを、

 経験によって知り、

 柔らかさによって知り、

 あらわになる香りの諸相により知っていました、

 そうして、陽の全く裏側に立ち、

 小さく待っていて、

 小さくほころぶこと、、

 どうしたって会うだろうことに、

 自分だけでも驚きながら・・・。

<1205>「今生の祝い」

 ひとつ打ち、ふたつ打ち、

 また、ひとつを打つ、

 これは、私が持っていた明らかな秘密だし、

 長い。

 この規則的な響きはどこまでも続くように思う、

 身体、身体、

 私は片付けをするのだし、

 片付けたそばから始めている、、

 

 無表情、

 隙間が来る、、

 新しい跳躍を持ち、

 がらんとした、ちょうど少し古くなった、

 全く落ち着いて呼吸しているむなしさに、

 徐々に 溶けていくことができ、

 高じ、興奮し、

 ひとりでに踊っている、

 

 隙間が来る。

 あの、なにや、

 差し迫ったものを持って来る、

 黙った朝の初めに、

 意識的な鳥が、

 意識的な声を発し、

 それを道になって視ている、

 道になった人、ひとりひとりが視ていて、、

 あの意識的な活動がそっくり付着したことを喜ぶ。

 今生は祝いの気分を持っていて、

 やたらにくつろいだ。

 

 同じように黙って用意されたものが、

 黙って燃されて、

 ある月日のなかにちょっと違う風を挟んだとき、

 私は視ているだろうか、

 私はここへ集中して立っているだろうか、

 同じような月日が、

 私を挟んで、

 黙って揺するときに、

 笑みをもってして事にあたるだろうか、

 その気持ちは快くかきまされているのだろうか、、

 私は願うだろうか、

 

 前もって、いくらか湿して来てたので、

 歩行は色を少し持っていた、

 ほんの少し、

 こころみに持っていただけだが、

 それでも映えていた。

 私が生きているということはとても騒がしいことなのかもしれない。

 それでも全く離れの、煙に包まれた、

 静かな住まいを視るときに、

 どうにかほっと息を継ぐつもりが出来ていた、

 声をかけていたくなった、

 そうして全く無目的に、

 朝になればそれなりの響きを足していくのかもしれない、

 私が視ているそばで、

 なんにも付されているように思われない道の上で、、

<1204>「新しい声にかかる」

 私にはそれは同じことになるところまでゆきたいのです。

 どうしたって激しく動きがあった日時と、

 全くなんにも音がしなかったというような日時を、

 全くおんなじものと考えていたいんです。

 そうして、良いという考えを払い、

 悪いという考えを払い、

 ただ変化を受けたところに戻って、、

 当たり前の表情で立って待っていたいと思うのでした。

 

 何の作用か、

 どこか一個処へ、激しく集まって、そうして力の強いものを、

 徐々に徐々にほどいていくのだと思いませんか、

 そう思うと、風が一層クリアになりました。

 しかし、私がどこかへ崩れていくところを誰が見ていたらいいのでしょうか、

 時々、何の煩わしさもなく ひとりで歩いているときなどに、そうしてぼうっとしていることがありました。

 

 いつまでも大丈夫でないことは悪いことでもないでしょうが、

 決していいことでもないでしょうね、、

 あなたが余計な事とそこで一声発するとき一体何を払おうとしていますか、、

 出来るだけ、一番後ろから行って、ひらってゆきたいと思います。

 じっと視、どこへも行かず、

 その敏捷さを存分にくゆらせながら、

 私の取るべき態度を見守っている小さな、

 そしていついつまでの身体であるかが分かる人、

 そういう人は今、瞬間をはっきりととりかえてどこかへ行ってしまいましたが、

 私はこの道幅が新しくなったのでなく、

 過去へ当たり前に戻ったのだと思いました。

 陽が隠れもしないのに、

 僅かにどこかが翳ったような感覚を持ちました。

  (少しここを駆けてみましょうか)

 地上の一区画が全面的に歓び、

 数多の動揺で迎えること、

 私は裸足になっていました、

 また、黙って見つめるものたちがあるのですから、

 お前たちはこうして気まぐれに駆けて、息の上がって嬉しいなんということがあるのかい、

 と、

 特別疑問にも感じずに投げかけていたのです。

 そうして、どこでも時間なんぞ変わらなかっただろうに、

 当たり前に暮れてゆきますから、

 私も徐々に名前が隠れる方向へ移っていったのです。

 さあ新しい声にかかろうではないか、

 さあここに弾むものを探ろうではないか、

 私があんまり一点を見つめていますから、

 そのときだけはあちらでも、何だろうな、と不思議に思ったかもしれません。

 しかし不思議に思ったとして、その感情がたった今新しく経験されたものだとしたら、

 何だか分からずに戸惑ったあと忘れてしまうかもしれません。

 当たり前に空間に染(し)み通っているひとりでした。

 一見関連のないような日のことが気にかかり出しました・・・。

<1203>「生まれた日」

 この人物から放たれた揺れは、今も止むことなく続いてきていて、

 私はほとんど酔いの姿をしている、

 揺れる身体のなかに、ただ立っているだけである。

 あんまり途方もなく、

 私がただひとつの限られた場所に立っていることが感じられるだけである。

 しかしこんなに新しく揺れ続けるものかしら。

 と、

 一切不思議に、ただぼうっと前方を窺うだけである。

 

 あなたの線はこうしてここにのびているだけではなく、

 ただなにかの強度を感じさせるだけでもなく、

 それは明らかに身体がひとりであることをやめた印なのだった、

 誰がこの同じ光景を眺めているだろう、

 眺めている人の、全く感情の外にいて、

 あなたは途方もない轟音を放(はな)っているはずなのだが、

 今日もまた‐とても静かだ、

 道行く人に不審に思われやしないか、

 こんなにぐらぐらとするのはちょっとほかに考えようがないから、

 あんまりしかし恥ずかしさを当たり前に忘れている、

 私はこんなところで恥ずかしいなどと思っていることが出来ない、

 あんまり爽やかな風が吹いているからだ。

 あんまり心地良く行くための条件がここに揃っているからだ、

 あなたがしかし何かを内に揺らして、

 そのままばったりと倒れた後、

 あまりに自然に流れ出だしたものの止むことない運動を見つめて、

 私は内へ、内へ、感慨を深くしてゆき、

 場合によっては無表情になっていたりした、

 

 丁寧に写すことなど思いもよらぬことで、

 私は言葉の前に無言で整列しているだけだったと思う、

 一切の表情がとけて無効になってしまっていただけだと思う、

 途方もない緊張から解かれて、

 風景は結んでいた手をひらいたかのような柔らかさだった、

 私は泣いていた、

 あんまりこの静かさに対する安心が深く、

 物事を放してやるべく泣いていたのだ、

 

 波を逸れて、

 同時にまた思い出すとき、

 私はどこか外へ出でたんじゃなかった、

 と、

 普通の声の大きさではっきりと言っている、

 なににせよ今は打たれるままに打たれている、、

 あんまり大きいので、

 打たれるままになっていて当たり前だろうという思いを持ちながら、

 自由に、思い思いのときに、あなたと同時になって、

 その声と時折似たりもしている、

 あんまり素直に現れているから、

 あんまり身体が柔らかいから。

<1202>「一日の傍ら、陽の照る奥で」

 私がここにポーズを残しておくから、

 偶然に、なんとはなしにその通りの姿勢をしえたとき、

 あんまり当たり前に思い出してください、

 なるたけ自然でいたいと思っていた身体を、

 あなたのためにそこへ特別の通路を設けておきます、

 しかし、

 大袈裟だと思って笑っていたのに、

 それとは別の時間に、大袈裟とはまるで無縁の表情で、

 おんなじことが出て来るのはどういう訳でしょうね、

 私はこんなに騒がしい日をどう迎えたいのでしょう、

 多分、それがために高揚していても、また逆にひどく憂鬱な気持ちになっていても、

 それはそれで全く構わない、あくまで身体は動かしていきますよ、

 という態度でいたいと望んでいるはずです、、

 それはそれは騒がしい日にです、

 あなたも多分尋常に目を据えていることと思います。

 あなたは多分最初から一切の言葉が分かるのでどうにも驚いていると思います。

 驚いたあとで、微笑むでしょう、

 そういった歩みを真っすぐに見る想いがします。

 

 どういう訳か、あらぬ方を見上げながら、じっとりと乗っかる疲労を感じつつ、なお足を運び続けて細い細い線を、こちらの方まで引っ張ってきていましたね、

 私はそういう日がいくつかに分かれてあることを知っています。

 そして今それをたったの一日として持っているのです。

 たったの一日になるよりしょうがないものとして、

 誰か分からない人、別の人がある時刻にほうけていたとすると、

 私はそこに雑談や何かをしていた相手を残して、

 勝手にそこのところへ線を延ばしてみていたりするのです。

 どう言うんでしょうね、

 自然な態度でなく、

 態度がなるたけ自然に近付くようにしていると、

 たったの一日にそれはそれは長く驚くようなことにもなります。

 その一日の傍らで、

 あくまで静かに眠るとき、、

 私はまた一本の線を新しく迎えられるのです。

 誰かが秘密を語っているとは思っていません。

 誰かが謎めいているとも思ってはいないのですが、

 そうした一日が尋常な速度で膨らんでいってただにいくつもを捉えてしまうと思うと、

 これは途方もないことですね。

 私は途方もない時間の跡を静かに辿りたいとも思っています。

 その陽の照る奥でただに姿は揺れて、

 全く見えなくなって、

 それでもなお前後の動きに、明るい意味も、、暗い意味も付与せで、

 ただ自然なままになってみたいと思っているんです。

 あなたは時間のなかで大層傲慢なことを考えているんですね、と、当たり前に思われてしまうかもしれませんね、

 今度どのように触れましょう。