<302>

大検討の古い夢を見よ。自分の見た夢の呈示という不可解さ。道順のないごわごわからあれよあれよと道が現れて、通過する。久しく夢を回復していなかった不安と破られた安堵で、しばしの休息を楽しむ職業人は、もう一度初めからやり直し、技術もリセットされ…

<301>

そう、警備を拒否してしまえばいいのだ。最初からそうしていれば良かったのに、と軽く浮かれて、入りたい放題出たい放題の群衆を眺める。尤も、核心に近づける訳ではなく、殺到する人たちは大喜びで外側をぐるぐると回るだけだったが(非常に速かった)。 走…

<300>

その人の前で何となく、いつも寝てしまったり、寝たいような気になるのは、安心しているからだったが、その人は、前にも他の人でこういうことがあった、というかよくあるのだと言って拗ねてしまう。端から退屈している可能性だけを考えているのだ。そうでは…

<299>

訳の分からない坂を仰ぎ見て、どこまで行ったらいいものやら、散々な目に遭いながらも、何とでも上手く言えてしまう状況が容易に想像出来ると、そのことでまた疲れてしまう。上手く言って逃れるというのが仮に(仮にじゃなくてもいい)大事なことだとして、…

<298>

紙一重であることを感じる度、やはり、うろたえる。うろたえることを強制されていると言ってもいいぐらいに、その態度は必然のものだ。どうして転落したものの側に立ったり、転落したものを批難する側に立てたりするだろうか。自分の足元も同じようであるこ…

<297>

罠みたく拡がる場所を前にして、何をこの、と力まない人間は、存外にどこまで行っても平気な顔をしている。一度も平気でなかったから後になってまた恐怖に陥る、のではなく、どこへ行っても平気そうな顔をしていたことに気づいて後から怖くなるのである(あ…

<296>

現実で起こる痛さと(例えば歯の痛みとか)、内側の世界との奇妙な遠さというものを思わずにはいられない。それは遠くから届いた電話のようなもので、もちろんお互いに交流はあり何かが伝わり、影響も諸に受けるのだが、同じ場所ではない。近くですらないの…

<295>

心象風景が穏やかな午後を襲い、変色する夢を頻りに追いやっているその影が、ひとつふたつと景色を見破る。泣き喚く者どもの夢を捕らえ、安直に結びつける額を叩いて、飛ぶ馬の境をひたすらに撫でた。ああ、暴走通りの気味悪さ、熱帯地方のどよめき。 ひっく…

<294>

検討に値しない出来事は第十木曜日に回そう。紙の余白が僅かに埋まったことを確認し、静かに閉じた。近づきようのないものが、少しずつ距離を詰めてきているのを感じる。あれは、確認というのはどうして繰り返せば繰り返すほど不安になるのだろう。こんなだ…

<293>

あまりよく見ていないものから現れる冷静な手のようなもの。それがいつまでも鳴り続けて意識を濁らせながら回転していく。二度と通らないという約束を反故にして尚進む中で痕跡は慣れない左足で消されたのだった。否、私はそれを右足ですることを拒否したの…

<292>

おそらく叫びもしなければ、救ってもらいたいとも思っていない。これは何だろう。最初から持っていないから、目的を失いようがないのだ。全体が目的を失った(ように見えた・・・というのも、最初からありはしないのだから)ことに気づいて慄いた時代とはズ…

<291>

朝がふたつ。続く天気は晴れ、ややまどろみ。冷静な水しぶき、なべて夢に持ちこみ、夕日は停滞。 朝がふたつ。どうりで天気快晴。やや迷い、冷たい水しぶき、夕まぐれの倦怠、夢に持ち。 露骨に道を渡る男の肩を控えめに掴み、軽く引きずり回した後で、暗さ…

<290>

表面的な変化に興味を見出せなくなる。すると、答えはどこかに退いた。道であることをやめ、空であることをやめ、そそくさと帰り、薄くなり、のっぺらぼうの地面をただひたすらに見せている。 くだらない絡まれ方に戸惑い、しかし上がるテンションはもうひと…

<289>

このことから、どうせ死ぬんだから、まあまあ焦りなさんなという語りかけが、有効に響くこともあれば、そうもいかずに空しく響いてしまう訳も分かってくる。生きているのが嫌なだけなら、その通りどうせ来る寿命を待てばいいのだが、生に耐え切れなくなった…

<288>

寿命が尽きて死ぬのと、自ら死ぬこととの間には、何かその、過程の相違というだけでは片付けられない相違がある。木の枝で首を吊ろうとしていた人間、しかし木の枝が折れて下に落っこち、怪我はしたものの何とか一命を取り留めると、 「助かった」 と言った…

<287>

一体私には何の苦しみもないのではないか。そう思うことが頻繁にある。それは、過去の記憶の否定でもなければ、私より単純に苦しみの総量が多いように見える他人と較べてのことでもない。苦しみのなさという空の場所に、突然スポッと嵌まるような感覚だ。そ…

<286>

夢の光景があまりにもゴチャゴチャしていて、起きてすぐには気がつけないにしても、しばらく時間が経つと、起き抜けに夢の中のあんなことを本当のことだと思って、一瞬でも頭がそのまま動いていたという事実に、思わず笑みがこぼれる。そこには順序も辻褄も…

<285>

何かに非常に勇気をもらう、そんなことは俺にはないのだよ、などと言えば、格好はつくのかもしれないが(別に、格好良くないかもしれないが)、しかし例外なく私にもそういうことがある。ただ、勇気をもらったからしばらく大丈夫かどうかというのは、正直な…

<284>

まるで無縁、無関係なものに対して全く無警戒でいるものだから、あっという間に距離を詰められてしまった。自分と対象とが一体になって、何故だかこの関係がどこよりも古いような気さえしてくる。それは、時間というものを持たないためか(つまり、今は、1…

<283>

夕景に踊る一両の流れ。伏せた目を細い影が捉えては損ね、捉えては損ねする。ほんのり暖かくなった内部を船が浮遊する。そこを満たすものは、ずらりと並んだ黒い群れ。警戒心を解かれた無数の粒は行き場を求めず、懐かしい光の中で空腹を装った。空中睡眠の…

<282>

デラウェア。ひとつひとつ皮から実を押し出しては食べ押し出しては食べ、余った皮は皿の端にまとめて置いておく。実を全部食べ終えた後、余った皮を手の平の上でひとつの塊にすると、口の中へ放り込んで、ぎゅうっと絞る。果汁を絞り切ってカラカラになった…

<281>

その男は空中を噛むと、大胆な太陽を引き寄せた。閉じた目に空間全体として刺さる球体は、出口を探してやや勢いを強めると、覚えず、道案内の白い一筋を裏切って、開かれた目の前で急速に縮まった。横暴を恥じるかのように、微かに呼吸を深くする。それとこ…

<280>

青やかに、朝まだき風の群れが、不都合に目覚めをそそのかすと、しばらくして戻っていく。長い確認が、穏やかさを植えつけつつ奪い去ることを予感する。ここは私の眠るところではない。 丁寧に暗さを抜かれた空が、一体となって誘い出す。遠慮がちにびゅうび…

<279>

不合理な名前を、ひたすらに呼んで、ろくに交わしもしない会話を踊らせた。午後のけだるさ、よく見えるものは皆素早く動き、その色を証拠に捕まるのだ。担当でないという戸惑いを、表に出すか出さぬかの違いだけで、私もあなたと同じような余所者だ。恥を知…

<278>

今まで会ったこともない人、見たこともないものに出合っても、 「これは、以前どこかで見た光景をいろいろと組み合わせて出来たものだ」 とは思わないだろう。しかし、夢で同じような場面に出くわせば、 「ああ、これは私が以前見たもののあれこれを組み合わ…

<277>

例えば、家族のある人と関係を持つことの何が悪いのかは分からないけれども、その行いによって、その家族全体を不幸にする、大方の人はそのことにひどくショックを受けるということを知っているから、わざわざあえてそういう行為には及ばないという人と、家…

<276>

見放されたと感じるとき、実は自分が見放しているだけだったりするし、不快な気持ちにさせられたと思うとき、大体自分も何か不愉快な行動を起こしていたりする。全部が全部そうだという訳ではないが、そういうことが圧倒的に多い。例えば、相手が不愉快な行…

<275>

思うに、関係があるという気分に入るのは、過剰に集中した結果として、ぼーっとするためなのだろう。その過剰な集中が解けて、ハッと我に返ると、まるで対象と自分とは関係がなかったような気持ちになる。ここで肝要なのは、ハッと我に返ったときの状態が正…

<274>

関係がある、というのは随分と奇妙な問題だ。関係があるのか果たしてないのかという戸惑いが、人を微妙に寄せつけない。それは分かっている。しかし、自信を持ってあなたと関係があるともまた言えないのだ。ない訳ではないのだろうが・・・。 関係があると認…

<273>

本当は分かっているのに分からない振りをしているのか、確かに違うと思っているから戦っているのか、分からなくなることがある。小さな頃、まだ批判能力もない頃に叩き込まれた価値観ほどそういうことになる。社会の一員としての地平に立てば、確かにそれは…

<272>

時の経つにつれ、間違いの数は少なくなっていくのかもしれないが、既に犯した間違いは、自分の中で段々に濃くなっていく。間違いの数が今になって少なくなってきたことなどまるで関係のないほどに。 何かに向かって人間が完成していくとするならば、それは間…

<271>

本当の~は、などという限定のつけ方はケチなもので、あまり好きでないと、何度か書いたことがあると思うが、どうしてそういう限定をつけたがるかと言えば、自分があるものに対して抱くイメージ(人生とは、天才とは等々)と全く逆のイメージを抱いていてそ…

<270>

結婚している人が高い評価を受けたり、恋人を作る、という言い方が当たり前に為されることの訳がようやく分かってきた。 つまり、人間の頭数を揃えることが社会にとっては最重要事項なのであり(貧困や劣悪な環境などがあったとしても、人がいれば国は成り立…

<269>

忘れられた家がある。それは、胸の中の夜を通して、街灯をひとつ揺らした。浴場の匂いが、ほんのひととき、悪事をさらっていき、佇む群衆の中で静寂を振り返らせる。目的を失った今でもなお暖かく、陽気さが顔を出すのを待っていた。 しかし、家は忘れられた…

<268>

草木と私と、ただ在るというだけのことで、どうしてここまで明暗が分かれるのか。それはひとえに、忙しないからだ。出不精な存在のどこが忙しないのか、いやいや、草木と比べれば違いは明らかだ。自分のポジションというものが定まったら、絶対に動かない(…

<267>

美しさでないものは深さを増した。萎れていくものの横で、色をも増やす。むろん、よりひとつの色が濃さを増しもしたのだった。美しさであるものの汚さを静かに見つめ、微かに笑いもしなかった。若いというのはどうにも頼りないことだった。身体がよく動くと…

<266>

効用がないもの、正確に言えば、「効用とかではないもの」について、支持したり、擁護に回ったりすることにはとてつもない難しさが付き纏うなあ、といつも思っている。 「どうしてそれが必要なのですか?」 「別になくてもいいのじゃないですか?」 という質…

<265>

何の返答もない空間で、黙って立っていることが出来ない、ただ座っていることが。最初から既に除け者であることの証拠として、これ以上のものはないではないか。答えなんて誰も必要としていない空間で、ただひとり、ただ一種類だけがそれを探している。尤も…

<264>

ただ在るということに対する恐怖や憎悪は相当なものになっている。私だって、最初から最期まで、ただ在るだけなんだ(中で何をやろうが)ということを意識して、怖ろしさを感じない訳はない。しかし、生き物なんだ、ただ在ることは他の何よりも自然なことで…

<263>

どこを追う、分別のつかない風が、丁寧に音だけを通し、雨は表を叩いた。吸収された空想は影になり、影だけになり、今や追う人はいない。二層三層の拘り、意味もなく震動を伝え、見つかるものはと言えば、だらけた動き、虚ろな集中。徐々に、明るくなること…

<262>

難解も繰り返されて、今度会う日の峠が徒に、夕暮れの到来を遅らせる。汽車は冷静に、あくまでも冷静に、夢を見ない夜を順々に辿り尽くす。ああ、鈍い響きを引きずって、ひとり、ふたり・・・。この夜に、歩みが僅かばかり足されることは一体何であろう。帰…

<261>

時々の説明は、理解のし難さだけを強化した。会場をスッと抜けていく姿を追いかけて、若者は足を速めたが、何も、逃れるというような有様ではなく、ただ家に帰るような足どりだったので、急ぐのをやめ、そのままついていった。途中、休憩なのか、公園のベン…

<260>

批判の急先鋒たる夫人は、不思議な夢を見た。あるいはそれは夢ではなく、誰かが直接語りかけているようでもあったのだが、むろんそれでも夢に違いなかった。何か大変良い印象を抱き、それが誰に向けてなのかは分からず、夢の常で、何を言われたのやら、起き…

<259>

店の前に立つと男は、顔をゆっくりと上下に動かし、小さな戸を引いた。いくつもの顔がこちらを見ている。喜怒哀楽はもちろんのこと、戸惑い、薄笑い、恥じ、癇癪などなど、種類は無数だ。 「どれにいたしましょう」 店の主人が、倦怠と憎悪の隙間から顔を覗…

<258>

案内人が先に立つ。一切こちらに目もくれないことで、残された時間が短いことを示していた。まさかその相手が私だとは・・・。大袈裟なリアクションに、彼我から違和が即座に差し込まれ、静まり切った時間に傾げた小首がなだれこむ。一羽の鳥は尋常な速さを…

<257>

人がいなくなるという感覚が稀薄で、自然に反応は淡泊になる。ただ、淡泊であるからといって、何も感じていない訳ではなく、よく考えたり思い出したりはしていて、もうよほどのことがなければ会うことはないという事実を承知しているにしろ、こうやって何ら…

<256>

風景であるための絵、材料の持ち合わせがない。存在しない壁のようにして浮遊する無色透明の塊は、執拗に筆に取り縋る。予定外の船舶は、風にやおら興奮をもたらし、なだめるような呼吸を為す、その灰白色。帰っていく素振りを見せつつ、波は行列を形成し、…

<255>

間違えられた囚人は、獄舎の中で森を食んだ。長たらしい沈黙の後で、靴音に似た音すら聴き取らない項垂れた拒否を、落胆の跡と見るのは当たらない。 勘違いの窓辺、看守は緩やかに己が捕らえられていくのを感ずる。そろそろと俯いた顔を覗き込み、まるで視線…

<254>

こういう人があったという。その人は一家の主。あるとき妻と娘共に誘拐に遭い、例に漏れず電話での脅迫を受けた。悪戯だと思ったか、どうしようもないことだとひとりで決め込んだか、理由は定かでないが、その人は犯人の要求の一切に応じず、警察にも連絡し…

<253>

繰り返しの道順が先に見えてしまうことに何か苦しさがある。実はその繰り返しの作業内容自体は大した苦しみも齎さないのだが、迎えたくないという訳でもないのだが。頭の中で先取りされることに苦しさはある。またちょっとしたら同じ場所に戻るのに、わざわ…