道徳や倫理観などを有難がりすぎるのは良くないのでは

 学校の方で、道徳を教科にしようという話があるそうで、実際にもうその案が採用されているのか、まだ検討中であるのかはよく分かりませんが、私は、道徳だとか倫理だとかを有難がりすぎるのは良くないのではないかと思ってしまいます。

 というのも、人類の歴史というのは、数々の、

「正しくなさ」

の積み重ねの上にありますから、あまりにも道徳を突き詰めれば、

「人類はこれ以上無闇矢鱈にのさばらない方が良い」

という結論に到達せざるを得なくなると思うからです。

 食いつなぐためならまだしも、好奇心で人を殺したり動物を殺したり、はたまた、この世の苦しみの切実なることを知りながら、尚も繁栄の為に子どもを産み落とす親の、ひいては人間の残酷さを、皆で結託して見ないように見ないように努めてきたという、その延長上に我々は存在する訳です。道徳教育に力を入れた結果、そのことに諸に直面した道徳意識の強い子どもが、

「こんな種ならば矢鱈に続かない方が良いんじゃないか・・・」

と考えてしまったとしても、私は何の反論も用意することが出来ません。

 しかし反論が用意できないからといって、

「人類なんかは存続しない方が良い」

という判断が道徳的であるとは結論づけられず、その結論はその結論でまた別の方向の道徳に反すると言えるでしょう。つまり、どう足掻こうが、何らかの道徳には反してしまうというのが人間の抱える性みたいなものなのです。そこへきて、子どもに道徳をしかと叩き込んだとしても、その子どもたちの道徳意識が高ければ高いほど、

「では一体私はどうすればいいんだ・・・」

という思いに駆られて、途方にくれてしまうような気がします。

 ですから、勿論、全く道徳教育がなくても良いなどということを言うつもりはありませんが、道徳教育は程々にしておくのが良いんじゃないかと思います。いくら一生懸命道徳教育を行ったところで、人間は、

「正しくなさ」

からは逃げられないし、それを背負っていくより仕方がないのに、あまりうるさく道徳道徳と言うと、子どもが参ってしまいます。