「好かれて、悪い気がする人はいない」という嘘

 その後実際に関係を深めていくかどうか、ということは別として、とにかく、

「好きと言われて、悪い気がする人なんかいない」

ということが言われたりします。

 確かに、実際に悪い気がしない人も大勢いるのでしょうし、他の人がどういうことを考えているかは分かりませんが、私に限って言えば、この感覚は全くよく分かりませんでした。ですから、

「悪い気がする人なんかいない」

というのは嘘だよ、少なくとも私には当てはまらないじゃないか、という思いを持っています。

 私にとって、他人から好かれること(友情ではなく愛情的なこと)は、恐怖以外の何物でもありませんでした。例えば何か、自らの条件的なことを取り上げられて、それについて褒めてくれるということならば(運動が出来る、勉強が出来る等々)、理解も出来るし、嬉しかったりするのですが、全く無条件に、ひとつの人間として好かれるということは、私の理解の範囲を超えていて、嬉しいと思う隙もなく、

「何でだろう・・・」

という疑問と恐怖しか身体に残らなかったのです。

 勿論、

「人が人を全くの無条件で好きになる」

ことがあり得るというのは、観念としては分かるのです。それに、私の方から相手を、全く無条件に、一方的に好きになることはありますから、それに関しては観念だけではなく皮膚感覚としても分かるのです。

 しかし、こと他人から無条件に好かれるということとなると、頭では分かっていても、皮膚感覚としては、全く理解が出来ないということになってしまうのです。