歌の神様に会ってきた

 二階席でライブの開始を待っていた私は、緊張で身体がギチギチになっていた。

「遂に・・・」

生の歌声を聴ける。いや、そのときの感覚は、

「聴くことになってしまう」

という方により近かった。実際に歌声を聴いてしまって良いのか。そんな思いが頭をもたげてきていたからこその、ガチガチの緊張だった。

 BGMとして会場に流れていたのは、『しあわせのランプ』。私が一番好きな歌だ。

「BGMとして流れているということは、本番では歌わないのかもしれないな」

緊張しているのとは裏腹に、そんなことを冷静に考えてもいた。

 

 「本日はお越しいただきまして~(中略)~それではまもなく開演いたします」

場内アナウンスが挟まり、まますると、会場は、暗くなることによってライブの開始を告げる。

 そして、本人の登場。

「ああ・・・」

聴こえている。声が聴こえているのだ。こういうとき、脳というのは一番あてにならない。ただポカンとして何も考えられないでいるだけだ。しかし、身体は正直に、歌声に呼応してビリビリと痺れている。

 そんな中、歌われる『カリント工場の煙突の上に』『All I Do』。静かに響く『サーチライト』、最近好きになって聴いていたところだった『それ以外に何がある』。そして・・・。

「しあわ~せに~」

ああ、歌ってくれた。本番でも、『しあわせのランプ』を歌ってくれた。

 静やかな囁きと、歌い上げる、叫び声にも似た声の応酬に、座席の上に居た私はクラクラとしていた。

 今回のライブは二部制であったため、ここでしばしの休憩。20分ほどしてまた登場だ。

 後半も、変わらぬパワーで続く。尾崎豊のカバー『I LOVE YOU』、たかじんさんのカバー『やっぱ好きやねん』。『君がいないから』『太陽さん』。好きになり始めの頃から聴き続けている『MR.LONELY』。曲が終わったタイミングで即、手拍子を観客に促すバンドメンバー達、

「これは・・・もちろん!」

そう、『田園』だ。ワァーっという拍手と歓声の後、そっと歌いだした最後の曲、『メロディー』。

 全てが夢のよう、いや、ほとんど夢そのものであった。それを示すかのように、会場を後にした私の足どりは、およそ現実のものとは思えないほどにフワフワとしていた。

 

 「もう終わったから、これから家に帰ります」

というメールの文面を引っ込め、代わりに、

「カラオケに行って、朝に帰ります」

と送る。

 曲の途中で止めたり、同じ曲を繰り返したりということはありながらも、6時間で歌った曲数72。それでもなお身体はピンピンしたまま家路へと。

 帰ってシャワーを浴び、この興奮を話すべき相手もまだ皆夢の中と悟ると、フッと電源を落としたかのようにそこから眠りについた。そして今私は、起きてこれを書いている。