その男は、彼のうちにぽっかりと空いている穴から拡がっていく光景を、とても豊かだと捉える事は出来なかった。そんなの嘘だ、第一所詮は君の中だけに拡がっている穴なのであって、そこでどんな豊かさを展開していようが、地球を見ろ、宇宙を見ろ、それに比べれば、君の持つ拡がりの、なんとちっぽけなことか。

 そう、ちっぽけなものだ。ちっぽけだ、ちっぽけだ、あはははは。男はひとり合点すると、安心したのか、大袈裟に笑い始めた。

 しかし、いくらズームアウトにズームアウトを重ね、宇宙との比較で、

「あれはちっぽけだ」

などと理屈をこねてみたところで、それが何になろう。そこに、許容しがたいほど豊かな拡がりを持って、穴が男の前に口を開いていることには変わりがないのである。

 男の笑顔は次第に乾いていった。