知ってるよ、知ってるから

 特に失礼なことをしたという訳ではないが、気持ちが閉じているときに対応が淡白になってしまった場合、後で、

「あのときは申し訳なかった」

と、謝りに行ったりすることがあり、そうするのはせめてもの誠意みたいなもんだと自分では思っていた。

 が、それも独りよがりだったのだと後々気づくことになる。他人は自身の鏡みたいなものだとはよく言ったもので、上記同じような理由で謝っている他人に出くわしたとき、

(いやいや、そんなの要らない要らない。みんな分かってるから。知ってるから。)

と思っている自分に出会ってハッとしてしまった。そう、そんな分かりきってることで後からわざわざ弁解されるのはうっとうしいし、面倒臭いのだ。それを自分がやっていたことに、他人の挙動を見て初めて気づかされた。

 これに気づいてからというもの、特に失礼を働いた場合などを除いて、この、独りよがりの誠意は省くことにしている。