流出

 流れ出ていくことを、もう少し認めなければいけない。留めることにばかり力を入れるとダメだ。どうダメかというと、単純にしんどいから。そして、自由に思い出せなくなる、その余地を狭くしてしまうということが起こる。

 ひとつひとつの詳細を憶えていたい。その不遜な思いが、詳細はさらさらと流れさせ、全体像をほのかに掴ませておき、後からその忘れたはずの細部を強烈に浮かび上がらせる(本当は詳細も忘れていないし、ただ流しただけではなかったのだ)自身に対しての不信を形作る。

 しかし、手前の意識でどう力もうが、その離れ業を、呼吸するようにいとも容易く繰り返せるような仕組みが、そもそものものとして備わっているのだ。もっともっと、全部忘れるつもりで次々に通過させていこう。