沈黙

 黙っている。そうするしかないから、そうするからそうする。別に黙りたくて黙っている訳じゃない。喋る術がないのだ。

 前を過ぎていく人は、怒っていたり、判断をしたりする。お前なんてこんなもんじゃあないか、あーはっは、と笑い、だんだんその顔が不安そうになる。ぽつぽつと弱みを吐露し出す。何だよ、慰めのひとつぐらい言ったらどうなんだい、と妙にスッキリした顔で文句を言い、柔和に沈黙する。

 もう来ないだろうな、とは思わない、思えない。思えないからまた来る。今度は何にも喋らない。大きな軀が嘘みたいにちょこんと座っている。よし、と言って、ありがとう、また来るから、と言った。

 嬉しくて涙が、出ない、出さない、出せない。出せないから、きっとまた来て、黙っている。