読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

<3>

 隣席の女性は、延々と話を繰り広げている。時々同意を求められるから、うん、うんと相槌を打っていた。しかし、あれだけ喋られて、何の話も憶えていないというのは不思議なことだ。隣席の女性が話している間(数学の授業前だった)、方向音痴な友人のことを思い出していた。その友人は今、音信不通なのだが、とても地理に自信があった。しかも、知らない土地の。絶対こっちに決まっているという自身の誇らかさに惹きつけられて、しばらく後をついていくのだが、一向に着かない。道を間違えたらしい。その友人がニヤニヤ笑っていたので、私も、おいーと言いながら笑った。そういうことで成り立っていた。時間内に着かなければいけないと誰が決めたのか。思い出して笑っている私を見、隣席の女性はある種の同意を得たのだと勘違いして、優しい、とてもいい笑顔になっていた。間違いを正すのはここでは野暮だと思ってよしたのだが、そういう振舞いが後々隣席の女性のショックを大きくするということに気がつかない。絵はそれを物語っていた。