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 彼にもまだ外側を見ていた時期があった。それはごくごく最初期の、短い時間で、ご褒美のデザートが間違って食前に来てしまったような感覚だった。しかし、私は普通の食事を求めている。おまんまとおみおつけと。それで良かったのだ。私は自ら勧んで絵に近づいた。むしゃくしゃしている、付き合ってくれ、と言う友人に会いに、隣町の食堂に来た。とにかくプンプンしているから、きっかけにどうしたのだと訊ねてみたら、コイツを知っているか、ときた。うん、好きでよく読んでいるよ、と答えたら、友人は蒼くなるほどに怒り、いや、お前が悪いというのではない、しかしなんだこれは。例えばこの一節を見ろ、”いまどき私小説を書く奴なんて、砂地でも歩いてきたのだろう”ときた。何を言ってやがる。あんたたちが協力してこの砂地を作り上げたんじゃないか、友人は息巻いていた。私は、その言葉の意味も友人の憤怒も、通過しただけで理解が出来なかったので、鷹揚に笑った。笑うんじゃない、と言って友人も笑った。友人は絵から遠ざかり、いや、最初から正面に立っていないことを感じ、少しく奇妙な感慨を抱いた。