<6>「彼(6)」

 為すべきことを見出したような思いに引っ張られ、キラキラと瞳が輝き出すのも不自然だが、そんなものはないと頑張って、輝きを殺そう殺そうと努めるのもまた不自然ではある。では、そのどちらにも傾かないのが自然なのか、自然と呼べるか否か、そんなことは分からないが、しっかりとした地盤を失った表情は、絶えず動いているように見え、動くはずのないものが動いていることに対し、描かれた当人が一番困惑しているようだった。渦巻くようにして次第に形を失っていき、しばらくしてまた輪郭が立ち現われてくる。彼は、幼い子どものように大声を上げて泣きじゃくりたかった。しかし、青紫色の気配が背中をじわりとさするだけだった。俺は引き攣ったように笑った。笑いながら、新しい絵を描いて、今のものと換えてやることを考えた。毎日見ているには良くない絵だと誰もが思っただろう。ただ、どれだけ手先を動かしてみても、既に今かかっているものより素晴らしいものにはなってくれそうになかった。絵を描き直すという計画を、早々に諦めるよりほかに仕方がなかった。

 彼女が想い描いていたのは、螺旋階段だった。ひとつところをグルグルと回り続けているようで、その実次第に上昇していっている、ルーティンの権化のような。建物に付属しているのではないそれは、倦むことなくひねりを繰り返し、これ以上伸びてはいけないという高さにまで迫っている。悔恨と歓喜で慄えているのか、いかなる衝撃にもびくともしなかったそうである。

 何故、隣席の女性に連絡を取ることになったのかよく分かっていないのだが、もう絵を見たくないんだという相談に、冷静に対応してくれたので助かった。早速ミニチュアを買って戻ってくると、絵の横の棚に置き、同時に見れるようにしておいた。