<20>「場所の粘り気」

 お前がそうやって簡単に退ける、いや、退けたつもりでいられるのは、偏に肉体の良好さに拠るのではないか。そのどうしようもない基盤がポロポロと崩れて行き出したとき、お前は同じように希望を必要としないでいられるか、不幸にもたれかからずにいられるか。

 さあ、どうだろう。そもそも、俺はそんなに簡単に、いや簡単にではなくとも、そういった何かを退けることが出来ているとは思っていないよ。確かに、目に余るほどの不遜さから、意識してここに居るということもあるのだろうし、また、やむを得ず、ほとんど激しく捉まえられているためにここに居るということもあるのだと思うよ。つまりあんたの言っていることは、ある色合いから見れば当たっているとは思うが、違う色合いから見ればそうとは言えないんだよ(「半分は当たっている」とここで言うことも出来るだろうけれども、その言い方ではどこか間違ってしまうんだ)。それで、身体のことだけれど、果たして俺の考えがその良好さに拠っているのかどうかなんてことはまるで分からないし、あんたがそういう疑問を持ち出してきたことも、全く分からないとは言えないけれど、それでもほとんど分からないよ。それに、今の状態ではない状態というものを想定して、その立場に移ったつもりでものを考えてみるというやり方が賢いのかどうかも分からないし、ほとんどそれは、いや絶対にか、失敗に終わると見て間違いないと思っている。

 自分が思っているんだか思っていないんだか、その双方が複雑に絡み合った状態の中にあって、微妙に、しかし強烈な力でここへと据えられているという、漠とした感覚しか俺には掴めないんだ。もっとも、掴めていないのかもしれないが。