<23>「オレンジ色をした夢」

 毒々しいオレンジ色が、通路を真っすぐに浸している。色を失った乗客は、左右に分けられ、丁寧に収納されているようだ。振動で全体の印象がぼやけている。うめくような、静かな寝息・・・。

 私は、眠っている、眠ってそのまま家に留まっている様子を想像した。がやがやという話し声の聞こえる車内より、想像上の自宅の方がよほど現実のものらしく思えた。

 かつて向かおうと思っていたのだろうが、今はそうでもなくなってしまった。何のために移動しているのか、いや、全く移動していないような気さえする。

 気の進まないまま、移動することを決めたことによる徒労感が、思いのほか大きくかぶさってきて、扉にもたれかかるようにして帰宅した。今朝、見送りに出てくれた彼は、今まで眠っていたのであろうか、扉を開いたときの振動でちょうど目を覚ましたようだった。

 部屋の空気が生暖かかった。私も、きっとどこへも行かず、今までここで寝ていたのだという気がした。いや、あんなにハッキリと、頭の中に描くことすら出来たではないか! どこまで行ったかと訊かれたので、往復2時間以上かけてちょっとあそこまでと言うと、彼は爆発的に笑った。私も、苦虫を噛み潰したような顔をして、後、爆発的な大笑いをした。痙攣が疲労を強めた。列車など通っていなかったと考える方が、よほど自然だという気がした。