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 一瞬、何かを分かりかけた。考えた末のことではない。暖められる車体の不気味な響きにひどく怯えながら、その何かを追いかけていくことが同時に遠ざけることだと知りつつも、手を伸ばさない訳にはいかなかった。埃は、指で触れようとするたびに、奥へ奥へと身を移す。諦めて代用したものは、どれも手垢にまみれていて、組み立てるべくもなかった。次々に建ち上がる。得意満面に紹介し、誤魔化し、相手を黙らせた。落胆、何にも持ち物がなく、言われるがままに言われたいだけのことを言われて、悔しさと恥ずかしさで顔をぐしゃぐしゃに歪めて泣いている方が、よっぽど良いというような、それはその方が縛りがないからだ。上手くかわせばかわすほどに絡まっていく。鏡に映った顔から、ほんの僅かの間だけふっと抜けてまた戻ったような、分かったのはそのタイミングだけで、もっとも、一瞬でも分かればそれは全部分かったことになっているのだろうが、私だけがついていけなかった。