<70>「やはり夢だ」

 消えてなくなる、二度と現れなくなる、こんなに自然で、違和感のないものはなく、空間の寂しさしか感じられないものもない。それに比べて、現れる、また? また? 何だ、それは。嬉しくないとは言わない、楽しいこともあるのだが、また? どうして、消えてなくなったではないか? 存在しているから、死んでいないから。そうだ、生きている人と、じゃあと言って別れたって、離れた場所にお互いが移っていくだけで・・・それが死と何が違う?

「誰々さんが死んだらしい・・・」

こういう鈍い響き、ざわざわとした悲しさ、消えてなくなってしまった悲しみには違いない。しかし夢がやはり夢であったという悲しさなのだ。幻のように、呆れるほどの回数、私の前に現れて、これだけ現れたのなら、きっとこれは夢ではないのだと抱いた確信を、さっと、むしろ清々しいほどにさっと奪っていく。ああ、やはり夢だった。何故現実のような顔をした? しかし、見せることしか出来はしまい。覚めた先のことは知らないのだ。そのときの衝撃を受けるこちらの身にもなれ、というのは人間だけに通じる論理だ。