<193>「揺れたままの人」

 動揺しないように、みたいな、無理ではないけれども頑なな構えを取らないように。動揺させられると、止まらなければいけない、引っ込まなければいけないと思うから、動揺してはいけないと思いたがるのだが、実際動揺してみれば分かるように、そのままで止まらないことも出来るし、引っ込まないことも出来る。全くと言っては語弊があるかもしれないが、動揺は身体の静動にはほとんど関係がないのだ。人一倍動揺し、させられて、その揺れ動きで大きな幅を取るようなことを考えてみればいい。怯えた面している奴が、幾分図々しいものだから、どうしても笑ってしまうだろう。

 歩くということはシンプルなのであって、右足、左足と、しかし気持ちが揺れると止まるようなこともあるので、それが自然ではあるのかもしれないけれども、何だかんだ裏切れるのだ。裏切りというのはこういう場面で使おう。びっくりしたーと言いながら、ちっとも歩を緩めないでいる。それを不自然でなくやる。歩くというのは日常だ。つまりいつでもその日常性を維持するには・・・。驚きを引き延ばせばいい、動揺を執拗に煽って、盛り立て続ければいい。