<243>「涙が出るほど嬉しい」

 ノックアウトされたピッチャーが、ベンチに帰ってグラブを投げつける。何だよ、お前が悪いんじゃないか、怒りたいのはこっちだよ、そんなことはピッチャーが一番よく分かっている。でも、どうにもならない。何でお前が怒っているんだよと言われても、その湧き上がってくる怒りをどうしようもない。自分が圧倒的に悪くて、それでもって腹が立ってしょうがないときの情けなさ、みっともなさ。

 子供のような瞬発力、つまりマズいと思ったらすぐに謝れる瞬発力があればいい。明日には仲直りできる瞬発力が。もう子供じゃないからという言い訳が、本当は出来ることを出来なくしているのだとしたら勿体ない。本当にすみませんでした。自分が悪いのに、自分が一番先に怒ってしまって、そう言えたとき、よく泣いてしまうのだが、情けなくて泣いているのだとばかり思っていた。そうじゃない、激しく感動して泣いていたのだ(謝っている最中に不謹慎ではあるが)。自分にもまだまだ柔らかさがあった。柔らかさが崩れてはいなかったという・・・。