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 風景であるための絵、材料の持ち合わせがない。存在しない壁のようにして浮遊する無色透明の塊は、執拗に筆に取り縋る。予定外の船舶は、風にやおら興奮をもたらし、なだめるような呼吸を為す、その灰白色。帰っていく素振りを見せつつ、波は行列を形成し、倦怠の暮色、乗組員が頻りに何かを言っている。収めどころを失って回転し、発言権の苦みを如何にせん。先頃まで横に拡がり溶け出していたものは、すばやくその影を回収した。もう夜だ。薄暗がりの中でかつての師は、

「あれがあなたの山だ」

と言った。顔面に走った皺は一直線に地平線を目指す。もう夜だ・・・。