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 その人の前で何となく、いつも寝てしまったり、寝たいような気になるのは、安心しているからだったが、その人は、前にも他の人でこういうことがあった、というかよくあるのだと言って拗ねてしまう。端から退屈している可能性だけを考えているのだ。そうではないから一応私は違うと言うのだが、違うと言えば言うほど、相手の中では、退屈していたのだという考えがより確かなものになっていってしまう。しかし、黙っていればいたでまた、本当は違うのに、はいその通り退屈していたと素直に認めるようなことになるではないか。

 安心していたということを充分に伝えることが出来ない。

「安心していたのだよ」

と言ったところでダメだ。この場合仕方がないから、心底安心しきったような顔で、傍らで眠ってしまう以外に方法はないのだが、それも相手には結局、退屈から睡眠へと逃れられてさぞかし満足だろうこの人は、と映ってしまうだけだ。どうにもこうにも仕方がないが、安心して寝ているところへ、退屈しているのだと勘違いしてむくれている人の視線を受けるのは、決して悪いものではなかった。それはそれは悪いものではなかった。