<392>「穴にふれる私」

 もし、全身が全身、穴だったら・・・。どこかに穴が開いているのではなく、どこかに穴が開けられたのでもなく、これらが全て穴だったらば。私は何も、本当に何も見留めえないだろう。しかし、何も見えないのだ。暗闇、ですらない。視線が、何かに遮られたのではなく、見えるものの地平に上がってこないものがそこにはあって、苦痛の種にすらならない。

 この穴は、どうやら、自分が自分に対するときにだけ現れるらしい。現れ続けるらしい。他の人は、私の穴など知らないし、私も、他の人の穴などを知らない。見えないのではなく、そんなものはないからだ。では、何故、自分だけにそれは穴として確かにあるのだろう。目は、目でなければ何かを見ているものが、ひっくり返って物を映すことが出来ないということか。

 誰がこれをやらせたのか。その意図も、動機も、感情も、行動力も、ちょうど綺麗に、くり抜かれたようにして見えない、それが私だという気がする。私が、私について得ているものは、完全な穴だということだけである。