<496>「同じものを見つめる」

 あの人の目には、世界はどんな感じに映っているのだろう、などと考えてみたりすることは一般的なことかもしれないが、おそらく私が、この頭を持ってそのまま他の人の目に移ったところで、見えている映像が今までと大して変わらないので驚くことになるのではないか。視点、見方などと言うとき、そこには多分に脳も関わってきているから、映像を通過させる眼球だけ変わったとしても、ちょっとクリアになるとかならないとかの違いしかないのじゃないかと思う。

 つまり、考え方が変わるとか、同じものを見続けていて印象が頭のなかで揺れ動くとかした方が、より大きく、見えている映像も変化するということだ。レンズを変えても仕方がない。何か違うものを見たければ、同じものを執拗に繰り返し見続けるのがいい。次々に違うものを見たって、

「違うものを見ているなあ・・・」

という感じは大して得られない。ものが、他のものへと変わったな、程度の感じしか。

 ずっと知っていたはずの人の顔を、改めてよくよく見つめてみると、

「あれ? この人こんな顔してたっけかな・・・?」

と、ふと思うときがある。この不思議な気持ち悪さ。しかしこの手の気持ち悪さは嫌いではない。