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 そんなことは、もう随分前に分かっていたのですよ、と言う顔だけ用意しよう。それでは何故今、ここで同じことが言われなければならないのか。並んだ顔に順番に問うていくと、ひとつひとつが次第に眠っていく、それはそれは丁寧に。あら、あなたがお探しの顔は、こちらじゃないでしょうか? 運ばれてきたのは、覚醒と、混迷の間を行き来する、疑問形の表情だ。その一瞬々々が、全体というまとまりを裏切り続ける。まとめをつけようとして、失敗し続ける話の数々を嬉々として語るその顔は、やがて曇っていき、名残もない。景色は充分だ。やっと口を開くとそう言った。挨拶も、もう済んだ。溜め息とともにそうこぼす。

「徒労であるという観念も、いや徒労じゃないのだという観念も、しばらく前からもう私には関係がないのだとしたらどうだろう」

聞かされるがままのものたちの、受けた衝撃は静かで、大きかった。

「それでは、疑問形の表情の訳は?」

うむ。

「あなたは、動く人間と全く同じものですか?」

さてさて、人ひとりひとりに用意されたものは一瞬だけだった、という話を、どの程度の真面目さで信じる人たちが、こうして街の中を歩いていると思う? もっとも、ここに連なるのは回答の群れではない。ならば、あなたがそこを踏みしめる、機械的? 人間的? そんな質問が発された瞬間から、笑いが止まらなくなるという事実によって、何かを掴むだろう。