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 「怪我は、それ自体がひとつの欠かせない魅力なのではないですか?」

でなければあれだけの近さと、硬さと、断崖絶壁が用意されるはずもなかった。傍で見て、ウーっと顔をしかめる仕草のなかの、ほとんどは快楽だと言ったらそれは誤りになるのだろうか。

 ゴールに向かって走っている訳じゃない。形相を見ずともすぐ分かる。

「私には眠りが必要だ。しかし、一体どこで眠ったらいいのだ。出来るだけ、そのものではないところ。しかし出来るだけ、そのものに近いところ・・・」

 許された状態を越えたところで、駆け足に進む男の目に、単純な悪夢は映らない。

「有り体の景色が不満なのだろう? ならば、少ないところをより多く、多いところをより少なく見たらいい」

表情を一切変えずに、視界の全てを説明し出したら止まらない。周りの人間は、応えず、足を左右に散らすことだけ考えた。ともかくも、全員で走らなければならない。集団の取るべき道として、これ以外のものはなかった。ひとりでに歓喜、ひとりでに叫び、疲労が、無鉄砲さを誘い出す。

 前を向く集団の、しかし行く手は崖だった。誰もが気づいて、ただ止めることをしなかった。

「はて、この近さを探していたのではなかろうか・・・?」

それは共通の疑問として皆の頭に浮かび、偶然がこれだけ沢山の場面に関わった。