<527>「赤い色で見る」

 半透明の、そこのあなた。見えているもののうちで、一番うさんくさいもの。もっとも、あなたは透明のことしか考えていない。透明だということしか。考えるのはいつもそのこと。

「私はまるで、ここにいないようじゃない?」

 あなたの、ただそこにはめこまれているだけではないだろう眼球は、辛そうな周囲の視線を、何の表現として受け止める? 当然、それは透明へと向けられたものではない。僅か、触れたばかりの過ちが、輪郭を、輪郭という表現を照らし出す。

 「あなたは、暗い、執拗な、赤い色をしているではありませんか・・・」

変な匂いを嗅いだ。それは、妙な情けなさを映すように思われたが、匂いはともかく、ここは少しくうるさかった。いや、徐々にうるさくなるものを聞いているのだと思われた。

 「私は、たったひとりで、ゴボゴボと鳴る大音量を聞いていた。私は、その音を、誰にも渡したくないと思っていた・・・」

優しさも、ここでは、影を薄くするに足りない。見るという行為が、こちらからの一方通行であれば・・・。それは、願いというより、みだりにものを貪る姿だと言った方が早かった。