<577>「身体操」

 左へ三歩、くるっと回って右へ三歩、くるっと回って左、右、左、右・・・。

「ねえ、私がどうしてこんな動きをすると思います?」

少し大きな声で周りに話しかけているようだったが、誰に訊いているのだ。一応顔だけは上げる人たち、足早に過ぐ。うーん、飽きたのか済んだのか分からんが、ぴたっと止まり真っすぐに歩き始めたようだ。ぶつぶつと呟くことたち、それはただ歩行に協力する。同じ場面で同じ怒りを表出して、感情が伴っていないことに驚く。あれ、つい最近までは言葉よりその感情こそが優位だったはずなのだが。

「まるで怒っていないではありませんか。何ですかこの巡りは?」

知らん知らん、そんなことを私に訊かれても知らん知らんとしか答えない。あー前進。とにかく好転したからいいだろう、と全面的に思うところにはいたらず、別に不安でもないが、首傾げの群れの先頭を行くのだ。行け行け、先頭を。

「あの、ここは歩行禁止ですか?」

「いえ、そんなことはありません」

「では、何故みんなしてここで止まっているのですか?」

さあ、というまま明後日の方向を見ているので、構わずこちらは歩き出した。当然他の人もつられて動き出すなんだ、予想していたことでもなんだと言っている。

「止まらなきゃいけない、ではありませんが、なんとなく止まってしまってつられるということがありますね」

ぼーっとしていてもいいんです、疑いが優位になっても。私はステップ、ステップ、ステップを大事にしますから、はい。