<592>「次々にこぼれて」

 裂けているのだから見るでしょう? 裂けているんですよ、あなた。誰が見たって同じことなのかもしれないけれど、ちょっと奥へ向かえばこうなのだと教えられたような・・・。

「ちょっと、ちょっと。あなたの中身はそんなんじゃありませんよ」

え・・・。あ、本当だ。このまま眺めているうち、そうか勝手に整えられたものだと思っていたよという声が、尋常な溜め息とともにズルズル、ズルズルと全体へ滑ってくる。何よりも確かな光景だから、その他一切のものが何らのためらいもなく過ぎてゆく。おい、どうしたい、これじゃあんまり無力だとでも言うのかい。だってそうだろう。あまりにその繰り返しの運びが激しい。これで落着いている方が難しい。音を立てて四方八方散りぢりになってゆくイメージが鮮やかに眼球を襲っていて、取るべき動作がないので徒にぐいっと方々を食いしばる。