<598>「抱擁」

 だってさあ、抱いてやらねばならないんでさあ。少しだってどうぞまた、ないがしろにされたってそりゃあ、このなかに含んで舐めて広がってやっていかなきゃあ、それはならんでしょうに。音もまた伝っているよ。ひどくひどくなんでもないと装いながら。このまま慎重に頬を伝って、いるよそのさきの再生と、透明と、壊れてゆくという過剰な怖れとが。

 本当に見たって言えるものがうようよ僕と記憶と。本当に見たって言えるものがとぼとぼ僕と慰めと。本当に見たって言えるものが今日の寛ぎのいちいちを占領してしまう、しまうからさあ、これはまず初めにあなたが抱いてやらなしょうがないと、そう思っているよ。

 あなたがたまたまた、ことを問うなり、またここを通るなり、非常な速さで泣いていたり、あくまでも訪ねてゆけ、そうした声を聞き、なぞり、巡る。ざああそらそら、驚いて君も延長しているよ。延長するまでもないと言いながら、もう少しもう少し、このことを私以外にも話してやってくれ。腕のなかで眼差しが待っている。何も言わずに待っている。