<657>「無表情の道」

 淡々と、おや淡々と進むものに、ついていったりいかなかったりして、これは暗い、しかし寂しくも、怖くもないトンネルなのだと誰かに語っていて、いや私も誰からかそう聞いていたのだ、から、ともかく歩いた。質問もなく、疲れもなく。

「例えば、重要だと思っていた部分がそれほどでもなく、まとまったひとつの空気、うんともすんとも言わぬ訳ではないものを、なんだろうなんだろうと眺めて、ぴったりとくっついていくことこそ大事」

と。なんだまだ私は分かっただの分かってないだのいうことどもに、こだわっていたのか、あらあら恥ずかしい。長く付き合ってきて、そしてこれからも付き合っていくのだろうということだけが、私に大いに関係のあることだったのだ。途中で動きが久し振りの道を辿ると、思い出されることがいくらもあってなんだ、動揺したらいいのか。しかし、思ったより動じない、でいると、別人に誰よりも近い存在として意識し出す、のだった。

「大切なことがひとつだけあります」

ならもう、言わないでいいのよ。そのひとつだとして、それが徐々にボンヤリして、幾通りにも見えてくることが分かるだろうし、こちらでも分かるから、全然関係のないくだらないことを言えばそれでいいのよ。