<737>「不案内の嬉しさ」

 彼は適当な声をあげている。知らぬどこかで、なくなりきって、苦しく吐かれることの。安らぎ、どこかで、ふん、と払われ、紛れもなく見られ、最後はこぼれてまざらばまとわりつく。

「不案内に、して」

いたい、それこそいつまでも。もくもくと、消えるそばからからかった文字、震えた発音、どこかで、座りっきりの人が応えた。

「どれも激しく違っていて、同じと思うのに苦労する・・・」

 からかいはからかいかたの分だけ渇いた。わざわざ私、の前にぬめっ、とした顔で現れた。正体はそれで問わなかった。

 毎度のことと言いながら少しずつ向きを変えている、それを皆で知っている、ただ、指摘するほどの変更ではなく、久しぶりになればしばらく驚く、ぐらいになって、試みに語っていたりする。苦しくてどうも、嬉しさ。