<765>「目の中に入る温度」

  あなたそちらお邪魔

 丁寧な声だった。聞こうものなら、そばから消えてゆく。ところで行先は私、訪ねたらしばし、近くの声の通りから幾らも隔たらないだけ、見通し、夜通しふたつの顔を行ったり来たりする様をその目に灼きつけたかと思うと、暗い。とぼとぼと渡る、と、静かな音。ああそちらでは聞こえない? 語られないだけやがてぼうと腹の中で燃える。心地の良い、明るさはただその熱さとばかり、熱さとは名ばかり、人の目をはばかり続けて隅の方でゆら、ゆら、と驚いた。かと思うと小気味の良い音が無駄もなく鳴る。私も、もう少しあたらせてもらえないかしら。近くへ寄って、これは痛いばかりに風、音、上昇、幾たびもこのままで過ごしてきたらと思える。ぽちゃっ、ぽちゃっ、続きの道で私ひとりで待っている。かなり濡れている。それに並んでいつとも知れず呼吸が近くなっている。目の中へ新しい温度を入れる。すぐには分からないことともともによく見えている。