<766>「跳ねて、跳ねて」

 いくらかの片側。そこは名付けた通りの角になっている。人々が、なにやかやがやがやと現れるだけ、一向にあちらを見ない。要するに、どこへ向かって流れ出せばいいか、分からないままで順番に歩き出してしまったのだ。

 どこへ行くの、さあ。ならば、どこにあるの? 私に訊くな、という表情ばかり数えていて、時間ばかりは経つけれどもそうだ、いくらでも座ってやったらどうだろう。既に、あちらこちらで座っている人々、立てとも何とも言わず、ただ中空の一点を眺めていた。眺め方に品があると思った。私はてっきり、この場限りの挨拶が必要で、知らされた名前もすぐに忘れてしまうものだとばかり思っていたが、勝手が違って、嬉しくて跳ねた。

 いや、軽さだ。ただ軽いから、跳ねて、私は跳ねて跳ねて跳ね回らなければならなかったのだと言う。それは誰でもいい言う。いやだなあ僕は、ここへわざと躍り出てきた訳じゃないのさ。理由がないのが何よりだった。