<828>「音と匙」

 くり抜かれた欲望のなかに、たじろいで待つ。誰がこの根(音)を嫌ったろう。

 あたしはあたしのなかの屈辱を不思議そうな目をして見つめている。

 見知らぬ人々の声が空洞のなかで響き、ぼんやりとした、残留物の、それを知らず呼吸する。

 本当は、この場面に、言葉は必要ない、いや、そぐう言葉を持っていないので、ついでに、声は、残留物的たる・・・。私は首を傾げた。

 私の声は匙を投げていた。そして、より、より低く伝うことを求める。どことなく絡み、ただ涼しい道。

 おそろしげにただ無意識の集団の代弁者。震度はお前の先にある。ただ、冷静たるこの涼やかな道を低く、低く表すその一連、を慎重に眺めている。

 疑いを抱かない声はきけたものではない。

 耳を塞ぐのでなかった。全体的な軽さ、魅惑的な軽さを吸っていた。

 ひと抱えの意図が爆発的な夢をみるとき、あえて私は身体的な遅さに与(くみ)する。いちもんじはその一歩を慎重に下ろさねばならない。

 土は染みる。土はいちもんじの踏み足を一度も予期しなかった。それで、いくらも柔らかさ的言語たりえた。色に表れている。

 あたしがうずもれる瞬間のいちいちをただの感慨だけで伝えよ。見事に塵となり見事に屑となる。興じてただ移ろいはひらめく。あなたがたが低さに与(くみ)しただけ私は外側に向けて開いていたと。その咲き声は全て新しい・・・。