Y市は私のなかで、いつまで経っても延々と図像を結ばない町である。
ついに結ぼうとして、徒(いたずら)にY市から遠のき、再び訪れる頃には、香り的な記憶及び断片のイメージしか残ってはいない。
見覚えのあるバスに、訳も分からないまま揺られてゆくと、いつの間に、見覚えのある和菓子屋の看板の前まで運ばれていた。
その日は雨だ。バスは、海の振舞いを引きずっている。箱型の妖しい光‐及び眠りは、突然の、巨大な駅に対しても、惑わない言語を持つ。
「すみません、コーヒーをひとつ」
「はぁ・・・。と言うと?」
「いや、コーヒーですよ? どうしました?」
「コーヒーなぞに興味はありませんが」
「いやそんなこと知りませんよ。コーヒーひとつお願い出来ませんか?」
「はぁ・・・、それはまた随分突飛な・・・」
「おい何言ってるんだ。困ったなあ・・・。コーヒーですよ?」
「はい」
「知りませんか」
「あっはは」
「ちょっと何を笑ってるんです? なんだよこりゃ、コーヒーお願いしますよ」
「そんなこと言われましてもねえ・・・。やけに力まれてるようですが・・・」
「あなたじゃ話にならないな、他の人を呼んでくれよ」
「他の人って、私が呼ぶんですか」
「そうに決まってるだろ」
「あっはは、それは面白いことを言いますね」