<899>「根の魔の器」

 なおも回転す。記号は、かき混ぜられたものの姿から、自由になるのでない。よく映す鏡だ。それが枠組みであればあるだけよくそのにおい、ニュアンス、を、映してしまう。

 小さくそこの隅で伸びをしていただけの記号よ、招ばわれて何を思う? なおまだ裾から転がり出ていってこのなかに詰まった肉をきれいさっぱり洗い流してしまいたいと思うのだろうか? しかし、なにの器(うつわ)だ。器とはなにだ?

 魔、それはおそらく器の響きをそれぞれにあらわして。いとど鳴る。かたわらには小刻みな震え・・・ト、地面をしかと掴まえて振るう歌ィ・・・。

 いかようにも、惑いを、記号に乗せ、ときには温度の上昇を、も、構わず、あなたらしく音声根(コン)の在り処を示す、して低く響いている、突然の段落を感じ、今止まる。身振りが明後日を眺めながら止まるときの、よそおゥイ・・・。

 ひしゃげた地面だ。いや、地面をひしゃげて歩いていたのゥだ・・・。そこへ生まれた。ひと握りの困惑の姿がそのひしゃげた地面に挟まっていた。私は誰をおそれた? おおよそ、秘密が、秘密が駆けてく、逃げ出してく。可哀想な、という形容を、他者として眺めた。そこで、同じ歌を繰り返し聴いていたのだ。喉ハふざけ、て、揺れる。暴露体質が私のそばで焦れている。

 「急げ! 急げってば!」

 しかし泥みたく水、のなかをものも結わずにただひとり押してゆく姿に全景は息を呑みしぃんと鳴る・・・。おそらくこの、振り向きを拒否した男は、奥の歯を噛み抜いている。奥歯を拒絶している。膜のマにあなたのとっピなメ・・・。