<907>「口腔内の華やかな夢」

 触れいでて・・・。よるのこごえ、タ、ひ・・・。私が、現実と違(タガ)える空間のなかへすんなりと現れる・・・。見出した手、とふたりで、ひとはよゥ・・・。

 無垢は、ファストフード店のヒに照らされ、路地をぼんやりと舐めている。口腔内意識の、ヒ‐日常、は、現実をも、ヒ(ヒ、ヒ、ヒ・・・)の方へ、押してゆく・・・。

 よくぞ、と、とびらの向こうへ人(びと)、かけがえのない声の、あるいはたれかの口のなかへ繰り返して言(こと)、快活な音(おと)となりくるくると渦の巻くときに、そは膨大な記憶的、絵になりこの場へぽつんと、(大袈裟なものが、まなかへ、ただのだだ広い空間へ、ぽつんと・・・)、座っている。

 あるいは眺めるの、デ、なくなった。ただの日常絵に、あたしが置かれていて、あたしは、あたしからは、確かめる動作が消えている。そこで、部屋の明かりを点けたり、消したりしているうち、火、のことわりを、ただ訳(わけ)もなく持ち込んでしまった・・・。

 ここは、ただ、だだ広いという事実で(余計なもののないおかげで・・・)、人(ひと)の声を招んでいた。人(ひと)は、手当たり次第にどこへも喉を向け、底からくる波にそのまま引き上げられてゆく。鐘さえも静かに身(ミ)を隠すような、白いライトの夢の中にいる。

 一音、一音で、口腔は跳ね、口腔は踊り、騒がしさへ向けて一心に走り出している。誰彼は溜め息、誰彼は膨大な渦、誰彼は極度の、しかししなやかな回転であった、日の・・・。

 とらわれのない華やかな明かりのなかへ浮かぶ、は、繰り返す・・・。