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 まれな声の響いた。ひとは影に目を留めていた。ザウザウと、胸のうち、騒ぐ、声はあなたの方へ転んでいる・・・。

 日が差している。おそらくは何の激しさをも、感じさせない姿で。ただの紙が風に乗っている埃が舞っているあなたは控えめに光る真白な歯になっている・・・。

 ひび割れは陽(ヒ)のなかであっけらかんとしていた。草の匂いに目を合わし、口をゆすぐ。近しい声はぬるさのなかに渦を作っている・・・。

 ただ、わたしの、表情の意味を知らないときに、いきいきと滑るもの、人(ひと)の姿や、掛け声、無数の汗の記憶のなかに、ひょっこり顔を出すもの、と、ふたりで・・・。

 色(イロ)はほとんど眩しくなっている。色(イロ)の、静かに口を噤むのを見て、むなしく回転する舌の、ほとんどとりこになった。わたしは汗をかいた。明らかに熱のなかに棲んでいて、わたしを見つめている。

 小さく風が、肩口を吹き、鳥の記憶の目を覚ますとき、ただ呼吸のリズムを変えている。ひとは口笛を吹いている。わたしが話すとき、あなたは眠っている。

 あきらかなあなたのためいきのなかにいるとき、わたしは幸福だった。わたしは幸福だと思う癖はなかったが、ただの笑みのなかにいてもいいとそのときには思う(のだろう・・・)。

 わずらわしく震えて、ひとたびその肌になってわたしが走って、いつもそばでカタン、とぎこちなく話す姿に、徐々に似てきていてどこへ目を向けたらよいのかも分からなくなった。

 ひとは橙の隅へ立ち、目を向ける。どこへ繋がっているのかも分からない心細さのなかへゆっくりと手を寄せていた・・・。