<923>「音の歩行先の」

 何故が分からない。わたしはひといきに喋る。ただの振舞いが、わたしですら忘れていた時間をも含み、伝えている。

 ひとの言葉を喋っていた。遠くで陽(ヒ)が軋む。はやく音(おと)になれたらいいね、と言う、ひとは皆祈っている。

 「わたしは音(おと)ではないのか・・・」

 遠くで陽(ヒ)が軋む。ひたいは踊っていた。汗のゆくさき、ひたいは踊っていた。

 風は突然、わたしを言葉に直す。炎天下に笑むひとは、視野の中心点へ向かって小さく、小さくなっていた。ふところには不明のひとの棲む、優しさは前触れもなく目印を失って中空へ吹き上がってしまう。

 沸騰した湯の中へ静かに落ちてゆく呼気の惑う・・・、、呼気などは初めからなかった。呼気などは初めから懐かしいものとしてそのひとのうちにあった。水面はただ不安をしか表明しない。

 太い管のなかに水の通る、わたしは腹ばい、わたしは腹ばい。ひとは気持ちを、叫ばなければならない。ひとが気持ちであることを内外で確かめるために、ひとは気持ちを、叫ばなければならない。

 あたしが確かに空気を置くようにしたところへ、ひとは棲んでいる。いそいそと吸い始めている。陽(ヒ)、の眩しくなるそぶりが、あたしにはいちいち見えている。それはどこも気持ちいい。

 わたしを過ぎたものは、わたしの見えないところにとどまって、時折缶ジュースの蓋をあけて笑っている・・・。