<936>「水色の時間に鳴る音のなかで」

 たれて交わす。まだらなヒのなかに進む。わたしは追う。たれ言(こと)をかけるのかも知らず、追う、追う。

 あたら涙、ひとはこぼし、触れるけわい、は、何度となく知る。語らいは続く、増えていく。

 ものがわたしの顔をなぞり、読み取る、は、微細な雲。雲であるのを知られていないこと。表情はこの一時(いっとき)を噛んだ。

 あの羽めがけてしたたり落ちると、さて羽ばたきは過去の音(おと)になっている。じとっ(・・・)、とした、ひらたい出合いのなかで、水色の歌はゆく。

 微笑みは揉み込まれ、熱す、熱す、沸騰して、くらみ、揺らぎ、身体(からだ)は軽くなる。わたしはいくらも乾いていた。いくらも乾きたがっていた。

 過去を小気味よく鳴らす喉、そのそばを駆け抜け、一瞬間(いっしゅんかん)にそれは夢になった。わたしが水色の歌をしつこく聞き留めるのはそのかどで。

 たれかは頭上で、飽くまで静かにいた。

  わたしは別の名で呼ばれている気がする・・・。

 ゆきかたはない、においはない、歩行の癖はない。わたしがいちどきに、いちかしょへ集まることがあると言う、それでは眠っているのだろうか。膨れてひらいて、はだかのまま走っているのだろうか。

 ひとは、声が、次々に音(おと)をくすぐっているのを、小さく受け容れ、いつまでも眺めているように思う。