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 午後になる。お酒を買いに行った。

何故お酒を買いに行かなければならないのか、それは分からないのだが、ともかく行った。

 ジェットコースターの話を思い出している。強度に関係することだったろうか。

 ジェットコースターの上から 男が叫ぶ。

「ベンチに座っているのなんて嘘だ」

なるほどベンチに座り、天を仰ぎ、人の行方を見ているとき、わたしは嘘になれていたのか、

 ジェットコースターは気晴らしではありえないのだろうか。わたしにはそんな種類の強度は必要ないからこうして飽きもせずにベンチにいる。

 不用意に顔を覗き込む女の人がいる。

「文庫本ですか」

文庫本ですか、というのは疑問だろう。疑問は文庫本と同じ空間に収まっているようだ。

「ええ、新しいやつ」

そうしてまたわたしはひとりへかえる。木々がざわざわとしているのでわたしは本でも読んでいよう、ということらしい。

 ジェットコースターの男はわたしの横へ座ると、

「アイス食べるか?」

ととうてきた。アイスは食べる。外ではアイスを食べるのだ。

 ふたりしてバニラアイスを食べている。今日はバニラフロートにしよう。バニラアイスにはお酒をかけてやればいい。

 渋い顔をしている。甘いお酒だ。お酒の甘さに渋い顔をしているのではなく、甘いお酒の前でただ渋い顔をしているだけなのだ。

 酔ってどうする。酔ってどうする。酔ってどうする。と思い始めたせいもあったか。

 一般に理性が飛んだ状態は気持ちが良いとされている、しかし理性を飛ばしてしまうことに対する不快感、抵抗感もそれなりにはあるのだ。

 道なりにバニラの香りがする。食べ物の匂いをひらひらさせているのは直接的なのか暗示なのかよく分からない。

「こうして歩いていると疲れるんだよね」

「まだ大して歩いていないだろう」

「そうじゃないよ。どこへ向かってどのくらい歩くつもりなのかが分かっていない状態はまず精神的に疲れ始めるってことを言いたいの」

「そうか、それならそこのベンチで休もうか」

 どれくらいぼおっとしていたろうか。ジェットコースターのことでも考えていたのだろうか、

「ねえ、いつまで休んでんの」

「別にいつまで休んでいたっていいだろう、ちょっと本を読むよ」

「なんでこのタイミングで読み始めるの」

「バニラアイスでも食べようか」

「は」

 ははは。文庫本はどこかもっとずっと遠くで買ったものだったけど、そんなことはわたしは構わないし文庫本の方でも構わない。

 ひとりで午後になっていて、ひとりでお酒を見に行くことにした。