その表情をよく見た。
特段騒がしいこともない場所で。
その表情はよく見られ、忘れられた。
あなたは決心していないのだと思っていて、
「別に何かを決心した訳じゃない」
と、よく言っていた。
しかし、特段騒がしい訳でもないこの場所へ居て、ひとりで黙々と、なにやかや進めている。
汗が見える。しかし、何か感情が加わるのでもない。
ここからは汗が見える。あなたの顔を初めて見たような思いがする。
その表情は過去に届いていた。
新しい服を着る。
新しい服は諦めて汗を吸い、
人々の前で二言目になろうとしている。
あなたは別の人の時間の中で生きていたあなたのことをおそらく知らず、知ったところでそれは別の人の話だというように思うだろう。
しかしなぜかそのことが今になって気にかかるかもしれない。
人の中で生きてしまった別人のあなたのことを思い出し、無関心に驚くかもしれない。
無感動に立ち止まるかもしれない。
そのときあなたは数多の断片を視界に収め、
またたくまに眠ってしまうだろうと思う。
あなたは細く、細く息をする。
ここは瞬間的に熱であるために、いつまでも熱だ。
いつまでも外へ出ている。
遠くの方で声をさせるあなたに、微かに近づくことをする。
細く、細く、見上げ、静かに過ぎる。
あなたは名などなんでもいいと思っていた。
名はなんでもよかったが、
あなたは、別の人のなかに見えてしまっていた。
どうせ、複数に揺れ、複数に混乱する。
微かに笑っていた、
誰もあなたを知らない、
あなたはあなた自身のことを徐々に知らなくなるような心地でいた。
事実そうだ。事実がそのようであり、またそのようにすることをあなたが望んだ。
そこで、日々はより別になり、別になった上で、同じようになった。
重なるな、重なれ。
まるで音もなく、、映像の急激な変化もない、、
ただ、こんな人には会ったことがない、という感覚は、日に日に大きくなると思えた。
これは誰だろうか。わたしが話しているのは誰だろうか。
あなたが誰であるかが分からなければ話すことが出来ない、などという馬鹿げた考えはもたない。
それに、今はひどく熱を持っている。
今はひどく饒舌になっていて、あらためてまた風景のなかに別人をあらわしている。
別人をあらわしているあなたの名前は分からない。