良し。
あれよ、あれよというマに、
揺れ連れられてきた。
歩道にけつまずく。
ひとつの風景に帰した。
徐々に、徐々に、揺れはひろがり、
わたしはまた歩きやすくなる。
さんざばら話していた言葉の中を。
ひとつの割れを、
割れを眺め、静かに持ち上げてゆく男を、
男は去る。 また戻ってくる。
腕が垂れる。 汗が見える。
昨日と今日で、なんら変わりのないものに、ただ話している訳ではないから。
誰かが道をアける。
いつものままで男が出てくる。
話をしない。
わたしは静かに布を重ねる。
並ぶ、並ぶ。
小さな穴以外のことを長く忘れて。
リズムと先生を思い出して。
先生には見たこともない姿が重なっていた。
誰ぞが走る。
誰ぞが走り切る。
舞台役も見物も、通りすがりのお爺さんも、ここでばかりは息をはく。
また、歩き出すと同時に。
また流れ出すと同時に。
ひとは見物を忘れて、辺りをウロウロすることになる。
男が通る。 誰も気がつかない。
いや、気がつく必要が起こらない。
男は額に汗し、無表情で過ぎてゆく。
何が見物かは知らず、
何が違うのかは知らず、
歩く、歩く、歩いている。
当然のように明日からは風景に帰り、もしやとまたぞろ引き出される人。
風景でも、舞台役でもなく、そばを過ぎ、去っていく男。
その背中を見ていると、ぼんやりして、
路面のなまの匂いにあてられて、
あなたがけつまずく。
ひたすら同じ路地に重なるあなたを、
けつまずきが不意の遊びになる時間を、
ひとり華やいでいる。
華やいでいることが何かを知らず、
知らなくともそれはそれでよく。