<1171>「一面の往復」

 一艘

 洋々、洋々、、

 呼気の元で僅かに揺れている、、

 老人、

 ぷかり ぷかり

 華やかな街を巡り、

 人を訪ねるという、、

 いいことでさあ、ねえ、わたしはこうして行ったり来たりしてまさ、どこへ行くったってそんな方向はねえですヨ、ホホ、

 巡る、巡る、巡る、

 もはや風も踊るまい、身体なんぞどこまでも軽うなりおうた、やはは、やは、

 風でしょうな、風でしょうな、

 と、老人 茶をひとつ、

 こくこく こくこく

 そうしてぴいと吹き、華麗な華麗なものは揺すぶれ呼気もいまや桃色に染まるものを、

 ねえ、どうです、これは、

 と、一艘、、そこにあの静かな姿はない、

 とまた、穏やか、穏やか、

 平静なん和やかに向う側へ着く。

 

 すると風が招ぶのか一戸、音もなくふいに開く、

 舟の中から流れるようにそこまで出でくと、、

 今日はお前が来るものとそう思っていた、

 はあはあ、ははは、

 そうに違いない、

 風でしょう、風でしょう、

 ぴいと吹きやる外の眺めに また一艘、それはそれは穏やかに、、

 お前さん、静かに吹かれて来たのだろうて、まあ、まあ、

 こんだけ上がりなさい、 こんだけ上がりなさい、

 と言うて、一杯の茶、側に僅かな、黄緑の菓子、

 こくこく こくこく

 あのう、何でございましょう、あたしは何にも知らないのでございます。 しかしここから行けばまた戻るのです。 戻ればまたゆくのです。 そうして季節とおんなじものになり、水になって流れ、上気し、風や身体、または霞となってゆくのです、と

 ほうほ、ほうほ、わはははは、

 えらいことです、 えらい行いです、

 お前さんまた近いうちにお入り。 お入り。

 

 ねえ、こうしてただに吹かれていなさる。

 踊りましょうか 踊りましょうか

 一面の華、 一面の緑です。

 はあはあ、 は、

 なんとけわい、 なんとけわい、

 一艘、

 またくれてやり、またくれてやり、

 陰をも静かに振るいます、

 そこにまた手、 かきまして、

 かきまして、

 あとはただなんなんと静かなひとひです、

 これもまた軽くなるひとひですから、、