<1206>「明るさへ出る」

 ある確かめようもない一日に真暗な姿のままで立っていて、

 ここをほどなく曲がるはずの人を見ている。

 驚きを浮かべ、、

 小さく笑んでいる。

 

 時間から大きく遅れたところで、いつまでも嬉しがっていた。

 

 私はこんな隙間を持っていることを考える、

 一体誰が案内を寄越したんだろうか、

 しかしもう照れ臭いので、普通の生活をいただきます。

 全くそれぞれの領域が沈黙になるまで、

 なるほど声が想像を絶した遠くに届くために、

 私はあんまり涼しい表情をしてここに静かにいます、

 

 なるほど同じ日の同じ出来事が、

 ある人のなかで欠けだし、

 またある人のなかで明瞭に点きだしているだろうから、

 それは全く活発に生きだしているようで、、

 それ相応の熱を持って、

 私の手までが感じられるのです、

 それを知らせるべくまた隙間に鳴っているのです、

 

 きっと、こういう一日なら、お前にやってもいいという日をひらって、

 そこにぼんやりとした香りをつくるでしょう

 あんまり嬉しい香りですが、

 これが常態だと、

 なんにも分からない、

 全くなんにも分からない、というのは少し間違った表現であるかもしれません。

 しかし軽々とした、当たり前に消えてしまいそうなものでも、

 こうしていつまでも点いているのですから、

 ひとりで安心して、

 このまま眠るということもありえましょう、

 

 なかなか捨てにくい声をしていると思いませんか、

 そのためかどうかは分からなく、

 ただ だだ広いだけであるかもしれませんが、

 あちらこちらによく通って嬉しいこと、

 それが喜びのまま私のところまで届くこと、

 それなので愉快な気持ちのまま、

 それだけで表情にはあらわれず、

 ただ黙々とゆく道の足しになっていることとも知らず、

 当たり前に歩みは軽いのです、

 

 当たり前に人の歩みは嬉しいのです、

 そこに何ものかが加えられていること、

 全く さらであることをも含めて、

 当たり前に閉じること、

 当たり前に散じることをも含めて、

 それは静かな一日をなしていたのだな、

 という、

 私ひとりの感慨まで届いて、

 ちょっと跳躍ひとつするのではない、

 わっ、という勢いひとつ溢れるのではないけれども、

 こんなに照っていていいのだろうか、

 と、

 道をゆく人が残らず思っているような、

 こんなに僅かなものでも瑞々しく全体に届いてゆくものだろうかと、

 たったひとりでも思っているような、

 そういう一日を知りたいと思い、また、

 そういう一日を確かに知っていて、

 なおかつ平生から見事に浴びている、

 と、そう思われて動かないのです、

 

 全く予期しない日の送りに出合い、

 あんまり素直に驚いたこと、

 あんまりきりきりしている呼吸空間の隙間に、

 これだけの香りがあること、

 誰かがまるで別のところにあり、

 何の前触れもなく思い出だしたときに、

 私の情景が素直に変わったこと、

 それを鳴いて知らせるだけのつもりがあることを、

 いつもこの同じ朝に感じ取っているのでした、

 

 それは、全く新しい陽の姿をしていて、

 私はとてもこういうものを憶えそうにないけれども、

 身体だけが何のてらいもなく変わってしまうだろうことを、

 経験によって知り、

 柔らかさによって知り、

 あらわになる香りの諸相により知っていました、

 そうして、陽の全く裏側に立ち、

 小さく待っていて、

 小さくほころぶこと、、

 どうしたって会うだろうことに、

 自分だけでも驚きながら・・・。