<909>「ことの朱のはじめ」

 くるい、うたを得(ウ)、い、くるい・・・。よくは知り、日の、繰りのなかへ、綺麗なものをゥ、染み、訪ねいわば、真新しさ、のなかへ、縒れる、淀む、淀む・・・。

 よゥ、よゥ、ビ、人(ひと)は流れ、語らいは喉を言(こと)に染め上げる。朱色の叫びをひとり目にする・・・。

 身(ミ)ィ、は、映え、ものは、狂い、干し、膨れ面の身体(しんたい)をほどいてゆく。絢爛たる身(ミ)、生き生きと、ゆく、また、手の振り、見事に溶けて、私(わたし)のところで初めて風になる身体(からだ)の、あまりの揺らがなさ。ひとりで撫でている、と、する、ノ、は、よそのそぶりで。

 ただ湧きたがっていた夜にひとりで増えていって、誑かされたひとひらの言(こと)を掬っている。たれかが静かに戸をひらく。われは息を忘れる。

 ぼゥとする温度のなかへ舌を転がして、言(こと)の残りを磨いてゆく、と、ふっと息をつくの、は、華やかな、そして小さい光。訳(わけ)もなく静かに沈みゆく・・・。

 色とりどりの混乱のなかへ無言で招待され、とにもかくにもひとつのステップで応えるとき、驚くほど自由だ。いや、人(ひと)は正確に、まさに驚いている。

 文(ぶん)をゆくの、夜(よ)、もよい、揺れに揺れて、まだ確かな、人(ひと)の背にうたいを乗せてゆくと、あきらかなトオンの眺めが、わたしの目に鮮やかだ。日々は文(ぶん)を縒っている・・・。

 照らされ、また、かげを失い、人(ひと)、人(ひと)が無の眺めで同じ言(こと)を同じ仕草で乗せるとき、ひとりの男は渦を巻きぐるぐると溶けて消えかかる・・・。わたしは言(こと)とともに緊張している・・・。

<908>「色の通り」

 おうい、ことが招んでいる・・・。たくみな意識のなかへ現実が腫れて出る、いでる、腫れはよく視界の外へまで膨らんでゆく。

 わたし、を編み、遥か彼方へ、遠方へよく声の通り、人(ひと)の隙間に細い糸の通り、色(イロ)を問わず、色(イロ)をまたず、まだその不分明な姿にするすると通(かよ)ってゆくとき、人(ひと)の喜びのなかにただのわたしが生えていた、のだ。

 いくらも生々しく、いくらも空洞の、その果てしない姿勢に、私(わたし)はただの裸(ラ)、マ、はだかで向かい合っている。ゆるやかに見えようゆるやかに漂う幼さに静かに挨拶をしていたものの、声、は、わたしへ向いた。例えばわたしには歴史があった。

 あれは彼方、よく裂いた。露出に限りがない。露出はとっくに普段の時間をこえてしまっていた。そのあとで、私(わたし)はよく、時間にこだわっていた。

 つまり、色(イロ)、であることを許された数々の時間のなかに、さて何が初めに溶け出してゆくのかを、ぼんやりと考えていったのだ、とひとりの別の姿で証言するは、休みの日に。

 ただ風のなかへ居(イ)、揺らいでいた。ただ風のなかへ居(オ)る、そして、揺らぎは私(わたし)の名自体となり微笑んでいた。こころもち、ぼゥとする、ノ、火の静けさ、あたりまえの熱にひとりうなずき、たくみな意識の先でゆっくりと振れている・・・。

 みだ、レ、みだ、の息づかいが、肌の予感なしに触れるとき、しばし無音、しばしホッと呼気の漏れたあと、わたしはまだらな膨らみを目にす。

 遠くでたれかの鐘が鳴っている・・・。触れるものの名を知っている・・・。

<907>「口腔内の華やかな夢」

 触れいでて・・・。よるのこごえ、タ、ひ・・・。私が、現実と違(タガ)える空間のなかへすんなりと現れる・・・。見出した手、とふたりで、ひとはよゥ・・・。

 無垢は、ファストフード店のヒに照らされ、路地をぼんやりと舐めている。口腔内意識の、ヒ‐日常、は、現実をも、ヒ(ヒ、ヒ、ヒ・・・)の方へ、押してゆく・・・。

 よくぞ、と、とびらの向こうへ人(びと)、かけがえのない声の、あるいはたれかの口のなかへ繰り返して言(こと)、快活な音(おと)となりくるくると渦の巻くときに、そは膨大な記憶的、絵になりこの場へぽつんと、(大袈裟なものが、まなかへ、ただのだだ広い空間へ、ぽつんと・・・)、座っている。

 あるいは眺めるの、デ、なくなった。ただの日常絵に、あたしが置かれていて、あたしは、あたしからは、確かめる動作が消えている。そこで、部屋の明かりを点けたり、消したりしているうち、火、のことわりを、ただ訳(わけ)もなく持ち込んでしまった・・・。

 ここは、ただ、だだ広いという事実で(余計なもののないおかげで・・・)、人(ひと)の声を招んでいた。人(ひと)は、手当たり次第にどこへも喉を向け、底からくる波にそのまま引き上げられてゆく。鐘さえも静かに身(ミ)を隠すような、白いライトの夢の中にいる。

 一音、一音で、口腔は跳ね、口腔は踊り、騒がしさへ向けて一心に走り出している。誰彼は溜め息、誰彼は膨大な渦、誰彼は極度の、しかししなやかな回転であった、日の・・・。

 とらわれのない華やかな明かりのなかへ浮かぶ、は、繰り返す・・・。

<906>「経るケの匂い」

 ふるっ。ふるっ。過去どの音(おと)をのぼってきたか。それはいざどんな模様で、わたしに手を振っているのか。

 音声のなかにわたしがふとよぎるとき、景色を取り巻くは、空気の揺れを・・・。人(ひと)はいざ、大音響のなかにすっぽりと嵌っていくはよし、たれの言(こと)をかうむっている・・・。

 ゆずりを受けたところへ、ゆっくりゆっくりと巻き戻してゆくはただ、鈍色のためらいの、新しい素(ソ)‐振り、新しい口調の悲しみ・・・。

 続きを待つ人(ひと)の喉へ黄色く映るあなたの表情を(何やら喉へ張りついて顔をしかめる人(ひと)、それから人(ひと)・・・)、日常音声のなかへ混ぜて掴む。そのときの態度、顔色に、わたしの全て、以外のものが映っている。どのような眺め方も拒絶されてここにぼんやりと一音(いちおん)として揺らぐ・・・。

 音(おと)は移り葉の形を丁寧になぞるとき、それはたれの目をもだまくらかしてスルスルと滑っていった。わたしなどは仰天から少し走り出しもした。

 震う・・・。急激に歩行のフリをして、とどまらず、道に溢れ、眠り、目覚めたつもりをする・・・。彼はひとひらに全てを乗せていた。それで、雨なのかなにかも分からなくなるまでに自身の姿を移し(映し・・・)、きていたのだ。

 人々が一様に耳をすますとき、おそらく通りのなかでおとなしく振るうのは、過去と音(おと)と道・・・。

 懸命にまくり上げてまだのあの空洞へ響け! 響いてくれ・・・。あたしは既にくしゃくしゃにしたはずの他者と再会している。そこにはまだ毛の持つにおいがあった・・・。

 一様に言(こと)。しかし、造作もなく葉先を伝う・・・。

<905>「別の泡に浮かぶ」

 現れてくる、かげからまたゆっくりと、笑みは笑みで・・・。歩(ホ)は、歩(ホ)で、どこまでもまとまった時間を持つ。その裏に浮かぶもの、多くの空想や、興奮の渦など、しかしわたしは冷静な拠点をも持っていて、また、その場へ居なくとも良いと感じている・・・。

 あとで想いをまたここへ返すことが分かる。そのとき、誰かしら得体の知れないものへ少しだけ、頭を渡してぼんやりとしている。先の自分が先に確信しているのを見て、変なことをする人(ひと)だと、ぼんやり考えてみたり・・・。

 次から次へ舌足らずに繋いでゆくのは・・・。わたしは感情を渡した? わたしは、あなたの湧き上がっては消え、湧き上がっては消え、スル、姿に、見慣れない街のイメージを重ねていた。ここへ歩(ホ)を滑り込ませてゆくのはわが身だろうか? 晴れてはまた、覆いのことなど知らないといった口振りで、軽さに身(ミ)を任せながら、軽さを疑っている・・・。

 人(ひと)はひとことの意味のなかへ自分を包んでしまった。ただ慣れない身振りのなかにあなたは輝きのひと呼吸だけを残して・・・。

 困惑はわたしのなかで他者になったり、ならなかったりした。もっとも、他者であればよいという考えは点かなかった。

 鈍い朝ののち、しばらく別人に浮かんでいて、それから沈んで混ざり、またふざけた泡になっていつものツラをその表面へさらすとき、ほんの少しのためらいがあれば、あとは前へ向けて語り出せばよいのだと知る・・・。

<904>「本気」

 本気で人(ひと)を想うというのはどういうことだろうか。例えば、それなしに私(わたし)は直線を(思い)描けないということ。その場で回転する渦のなかにスコンコンとむなしい音(おと)が鳴り響き、あとには自身の回転が何か他人事のように見えてくること。

 気持ちが、まっすぐに小さな空気に乗り、幾度となくあなたを、それから私(わたし)を震わせたこと、それを忘れることが出来ない。むろん、忘れる必要もない。

 わずかに熱を、燃え盛るもの、を、瞳の隙間から染み出させ、全体の空気がその微細な一角で説明のついてしまうとき、私(わたし)にはむしろ何の苦しさもない。私(わたし)は、あらゆる意味で若かった・・・。

 人(ひと)は湯気になり、人(ひと)はハンバーガーのふざけた味になり、人(ひと)は、電車の光が与える安心感になる。私(わたし)は小さく手を振っていた・・・。あたしにだけ、表情の秘密をそっと渡された、みたく、嘘みたいな明るさのなかで・・・。

 窮屈になってしまおうと思っても、なれなかった。私(わたし)の目が、私(わたし)に、本気であったことを伝えていたから・・・。本気であったことなど、知らなかった。

 軽快なステップは、まだない。ただしわたしはこの目に映った本当の時間の数々をいつまでも忘れることはないだろう。

 ぼんやりとした回転のなかに、震えるは、人々の時間。その全てに安心してひとりの眠りのなかへ進んだ・・・。

<903>「春の道、よその道」

 どこへ向けて風(かぜ)のよそへ吹くのか・・・。マ、新しく目の、目のなかへあれ、変わる姿。

 よそをゥ行(ゆ)く。よそをゥ行(ゆ)くひとりのたたずまいを、静かに見つめる。と、ふとゆくと、明らかにこぼしているものが、ある、と、すれば、それは問わずにいた、もの、溢れて、あァ、全てが溶けて、ひろがって、あなたが浮かべていたものへ、すゥっと乗って、そのことのなかで声、私(わたくし)のそばへ渦巻いていたのだと思う。

 なんの気なしに道のそばへ、私(わたし)がことと知るものをひろげ、人(ひと)はなにの色で私(わたし)を覗き込む? 整列して、決まり悪く朝になって、眺めて、またひとつ行方を告げて、誰彼なしに笑みを向けている・・・。

 鐘の余韻へ身(ミ)を任せて・・・。その姿形がわたしにとっての春をすっと寄せて。陽気のなかにただシンプルな音(おと)としてあるあなたが好きだ。わたしは見ていたい。ひとの指の先が告げるただからからと鳴るさわやかな絵の姿のなかにいるもの全てを見ていたい。

 ひしと立っている。それは、揺れないことではない。あなたの笑みの先、その真っすぐな線の先に、私もまた満面の笑みで到着出来るように、ひしと立っている。