ページを飛ばしてはいないということを、分かってはいるのだが・・・

 本を読んでいる。眼前に広がった本の、見開きの右側右上には数字の「2」が、左側左上には「3」が、それぞれ刻まれている。両数字とも、その本のページ数を表している。

 ということは、ページを繰れば当然、次の見開き右側右上には「4」、左側左上には「5」が、それぞれ刻まれているはずである。ページを繰る。確かに、右上には「4」が、そして左上には「5」が刻まれている。

 ここまで何の問題もないはずだが、何故だか私は、再び前のページに戻って、前のページの「2」と「3」という数字を確認したいという衝動に駆られ、また実際にそうしてしまった。別に、ページを飛ばしていやしないことなど、自分で良く分かっているはずなのにだ。

 見開きの数字が「2」と「3」であった場合、次の見開きの数字は「4」と「5」で間違いないのだ。しかし何故だか不安になって、前のページに戻ってしまう。

 そうして何度も何度も、不安になって前のページを確認するということを繰り返しているうちに、あることに気づいた。

「別に私は、ページを飛ばしてしまったんじゃないかという不安で、前のページに戻っている訳ではない」

ということに。そうではなくて、私は、それとは違う所で不安を感じていたのだ。

 今まで見開きでもって眼前に広がっていた左右のページが、ひとたびページを繰ることによって、全く目の前からは消えてなくなったかのようになってしまう(物理的に消滅したわけではないのだが)ことに驚き、

『今、見開きの左右上部には「4」と「5」が刻まれているのだから、前のページの同箇所の数字は「2」と「3」で間違いないのだろうけれども、果たして本当に、左右上部に「2」と「3」が刻まれたページなどあっただろうか。今私の前に広がっているのは「4」と「5」が刻まれた見開きページだけであり、それ以外のページは存在しないんじゃないのか。私はその見開き2ページを本当に経過しただろうか・・・』

 ということを考えて、不安に感じていたのだ。そのために私は、分かってはいても、さっきまで視界のなかに捉えられていたのに、今はまったく存在しないかのように視界から消えてしまった前のページを確認しに、何度もページを戻っていたのだ。